研究内容

 当研究室では、「ホルモン」を介した様々な生命現象について、「蛍光タンパク質センサープローブの開発」や「細胞から個体まで観察できる最先端のバイオイメージング技術」を用いて分子・細胞・個体レベルで明らかにし、その機構の破綻によって起こる様々な疾患の発症機構の解明を目指しています。具体的には、糖尿病や摂食障害などの代謝疾患、自閉症やうつ病、そして躁うつ病などの神経疾患の発症機構の解明にも取り組んでいます。以下は、現在取り組んでいる主要な研究テーマの一例です。なお、研究内容に関するご質問やご相談等は、こちらのフォームにご記入ください。
直接こちらまでご連絡下さい。

    ・「第2の脳」である腸の不思議を探る
  • 消化管、特に小腸からのホルモン分泌や、脳のグリア細胞からの情報伝達物質分泌に腸内細菌叢がどのように関与するのか、また動物個体の行動にどのような影響を与えるのか解析しています。
    ・蛍光タンパク質センサーの開発
  • 細胞内シグナル伝達や代謝状態、そして分泌反応を可視化するための蛍光タンパク質センサープローブを開発しています。これらのプローブを用いて、様々な細胞の生理機能の解析や、線虫や粘菌、またマウスといった個体の行動を司るメカニズムについて解析しています。
    ・可視化解析技術の開発を通じて疾患の原因を探る
  • 上記蛍光タンパク質センサーと、生きた動物の体内を直接間接できる生体内顕微鏡や超微小内視鏡技術を組み合わせ、神経疾患や糖尿病、心不全や消化器疾患などの原因を探っています。

キーワードは、神経細胞、グリア細胞、消化管内分泌細胞、iPS細胞、心筋細胞、バイオイメージング、蛍光タンパク質センサーです。

開口分泌反応の調節メカニズムを探る

 ホルモン分泌細胞は、副腎や膵臓だけでなく、胃や小腸、腎臓や脂肪など、さまざまな臓器に存在しています。しかし、個々の臓器に存在する様々な分泌細胞が、どのようなメカニズムでホルモンを分泌するのかについては、明らかになっていません。そこで、開口分泌反応を直接可視化解析できる特殊な顕微鏡(全反射蛍光顕微鏡やリアルタイム共焦点顕微鏡)を用いて、開口分泌を制御するメカニズムの解明を目指しています。また、神経回路形成や記憶学習にグリア細胞(特にアストロサイト)から分泌される様々な生理活性物質(グリオトランスミッター)がどのように関与しているのか、その分泌を制御するメカニズムの解明も目指しています。

 当研究室では、これまでに、胃から分泌され食欲亢進を引き起こすグレリンや副腎髄質から分泌されるカテコールアミン、さらに脳のグリア細胞、特にアストロサイトからのATPやペプチドホルモンの開口分泌反応を可視化することに成功し、それら臓器の開口分泌反応調節メカニズムの解明に貢献しています。


膵β細胞からインスリンが分泌される様子

「第二の脳」である腸の不思議を探る

”Gut Instincts”や”Gut Feeling”という言葉を御存じでしょうか。本能的直感と訳されます。日本語にも、「腑に落ちる」や「腹を抱える」という言葉があります。このように私たちの感情や行動を表す言葉に「Gut」、つまり「腸(消化管)」が用いられます。

 なぜ「腸(消化管)」を私たちの感情や行動を表すのに用いるのでしょうか?実は、脳の神経細胞のネットワークと同様のものが、私たちの腸(消化管)の中にも存在しています。つまり、腸(消化管)でも脳と同じ神経伝達物質やホルモンが放出されているのです。最近の研究から、腸(消化管)が食事や栄養吸収などの環境変化に応答して分泌する神経伝達物質やホルモンが、私たちの感情や行動を変化させることが明らかになってきました。さらに、腸内に存在する様々な細菌(腸内細菌)が作り出す物質、たとえば酢酸などによっても神経伝達物質やホルモンが放出され、私たちの代謝状態を変化させることもわかってきました。

 このように、消化管から分泌される神経伝達物質やホルモンが、記憶・学習、そして食欲などの高次精神活動だけでなく、血糖調節や代謝状態の制御、さらには免疫制御にも深く関与することも分かってきました。そのため、消化管からの神経伝達物質やホルモンの分泌機構に障害が起ると、糖尿病や肥満、さらにはアレルギー性疾患にもつながることが分かってきました。そのため、 腸は「第二の脳」 とも呼ばれます。つまり、昔の人々は、「腸(消化管)」の大切さを分かっていたのでしょう。

 残念ながら、現代人である私たちは、「腸(消化管)」がどのような刺激で神経伝達物質やホルモンを分泌するのかをまだ完全には理解できていません。そこで当研究室では、細胞膜を透過できる蛍光物質や蛍光タンパク質を用いて、生きた細胞に直接蛍光タンパク質センサープローブを導入し、実際にホルモン分泌反応を全反射照明型蛍光顕微鏡と呼ばれる特殊顕微鏡と超高感度カメラを用いて可視化解析することで、どの様な物質によって消化管からのホルモンの分泌がどのように制御されているのか、解明すること試みています。


消化管ホルモンが分泌される様子

蛍光プローブや新しい顕微鏡の開発を通じて疾患を理解する

 神経細胞や内分泌細胞内では、分泌を制御する何万個もの分子が協力して機能しています。しかし、細胞内で特定の分子の機能を解析するためには、観察したい分子だけを光らせなければなりません。そこで、開口分泌や細胞内シグナル伝達過程、また細胞の形態変化などを生きた細胞において可視化するために、蛍光タンパク質を基本とした機能性分子(蛍光タンパク質センサープローブまたは分子スパイプローブと呼ばれます)を新規に開発し、細胞レベルだけでなく個体レベルでの生命現象の解明を目指しています。

 細胞内cAMP動態を可視化するための輝度変化型緑色cAMP計測用プローブFlamindoとその蛍光色を緑色から赤色に改変したPink Flamindo、さらに細胞内cGMP動態を計測するための輝度変化型緑色cGMP計測用プローブ Green cGull、細胞内のグルコース動態を計測するための輝度変化型グルコース測定用プローブGreenGlifon、そして、細胞内張力を計測するためのプローブの開発に成功しています。現在も様々な蛍光タンパク質センサープローブの開発を進めています。これらの蛍光タンパク質センサープローブをiPS細胞由来の心筋細胞に導入し、心疾患の原因を探る研究も並行して行っています。また、細胞レベルだけでなく、個体レベルでの生命現象を可視化解析するための生体イメージング顕微鏡の開発も行っています。

 以上のように、「これまで捉えることのできなかった生命現象を目で視えるにする」分子スパイプローブと生体イメージング顕微観察技術を用いて、生命現象を司る分子機構の解明だけでなく、分子・細胞、そして個体レベルでの疾患解明を目指しています。



PinkFlamindoによる細胞内cAMP(マゼンタ)およびGreen cGullによるcGMP濃度変化(緑)測定とメダカの心臓

脳の不思議を探る

 生まれて間もない脳には、多数のシナプスがあります。その後、必要なシナプス結合のみが強化され、不要なシナプス結合は、除去されます。このような過程を経て、最終的な神経回路が完成します。この過程はシナプス刈り込みと呼ばれ、この機構に障害が起ると、自閉症や注意欠陥多動性障害などの神経疾患が発症すると考えられています。また、自閉症、双極性障害やうつ病との関連が示唆される遺伝子変異が近年多数報告されています。そこで、これら遺伝子変異によって、神経回路形成や機能にどのような影響が起こっているのか、遺伝子組換えマウスと動物個体の神経活動を観察できる生体顕微鏡を用いて解析を進めています。

 線虫(Caenorhabditis elegans)は、体長約1mm程度の小さい虫ですが、視覚がないため嗅覚の優れた生物です。哺乳類とほぼ同様の分子機構でにおいを感じます。線虫は、哺乳類と異なり、神経細胞数が少ないために神経機能解析が行いやすく、嗅覚のモデル生物として広く用いられています。そこで、様々な蛍光タンパク質センサープローブを作製し、線虫の嗅覚機能の解析に適用することで、ヒトの嗅覚を理解することを目指しています。例えば、ヒトでは、同じ物質であっても、低濃度では心地よい匂いに感じても、高濃度では不快な臭いに変化することがあります。この様な複雑な制御がどのような仕組みで行われているのか、解析に取り組んでいます。また、線虫の優れた嗅覚をヒトの様々な疾患のスクリーニングに応用できないか、その可能性についても解析をすすめています。

 

マウス初代培養海馬ニューロンのシナプス接合部(黄色)と線虫

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