研究内容

 当研究室では、脳と腸(または腸と脳)の機能連関の破綻によっておこる認知症などの認知・記憶障害、自閉スペクトラム症、統合失調症やうつ病などの精神神経疾患、糖尿病や肥満症などの代謝疾患などの発症メカニズムの解明に取り組んでいます。研究内容に関するご質問やご相談等は、こちらのフォームにご記入ください。

    ・「第2の脳」である腸の不思議を探る
  • 腸内細菌叢や腸内代謝物、消化管から分泌されるホルモンが、認知機能や情動、代謝をどのように調節するのか、そのしくみの解明に取り組んでいます。
    ・「蛍光タンパク質センサー」の開発
  • 細胞内のシグナル伝達や代謝状態、そして分泌反応を可視化するための蛍光タンパク質センサーを開発しています。これらのセンサーを用いて、動物の行動時の神経活動や代謝状態を目で捉えることに取り組んでいます。

キーワードは、神経細胞(ニューロン)、グリア細胞、腸内分泌細胞、腸内マイクロバイオータ、脳腸(腸脳)相関、バイオイメージング、蛍光タンパク質センサー、光遺伝学、化学遺伝学です。


「第二の脳」である腸の不思議を探る

 ”Gut Instincts”や”Gut Feeling”という言葉を御存じでしょうか。本能的直感と訳されます。日本語にも、「腑に落ちる」や「腹を抱える」という言葉があります。このように私たちの感情や行動を表す言葉に「Gut」、つまり「腸(消化管)」が用いられます。

 なぜ「腸(消化管)」を私たちの感情や行動を表すのに用いるのでしょうか?実は、脳の神経ネットワークと同様のものが、私たちの腸の中にも存在しています。つまり、腸(消化管)でも脳と同じ神経伝達物質やホルモンが分泌されているのです。近年、腸(小腸や大腸)が食事や栄養吸収などに応答して分泌する神経伝達物質やホルモンが、私たちの感情や行動を変化させることが明らかになってきました。さらに、腸内に存在するさまざまな細菌(腸内マイクロバイオータ)が作り出す物質(腸内代謝物)、たとえば酢酸や乳酸などによっても神経伝達物質やホルモンが分泌され、私たちの代謝だけでなく、感情や行動すらも変化させる可能性が分かってきたのです。

 このように、腸から分泌される神経伝達物質やホルモンが、記憶・学習、そして食欲などの高次精神活動だけでなく、血糖調節や代謝状態の制御、さらには免疫制御にも深く関与することも分かってきました。そのため、腸からの神経伝達物質やホルモンの分泌になんらかの不具合が生じると、認知症やうつ病、糖尿病や肥満、さらにはアレルギー性疾患にもつながることが分かってきました。これらのことから、 腸は「第二の脳」 とも呼ばれます。つまり、昔の人々は、「腸」の大切さを身をもって知っていたのだと思われます。

 残念ながら、現代人である私たちは、「腸」がどのような刺激で神経伝達物質やホルモンを分泌するのかをまだ完全には理解できていません。そこで当研究室では、生きた腸のホルモンを分泌する細胞(腸内分泌細胞)に蛍光タンパク質センサーを導入して、どのような物質によって腸からホルモンが分泌されるのか明らかにすることを試みています。そして腸内分泌細胞から分泌されるホルモンが、記憶・学習や情動、代謝や免疫機能などをどのように調節するのかについて解明を目指しています。

「蛍光タンパク質センサー」の開発

 神経細胞や腸内分泌細胞では、神経伝達物質やホルモンを分泌するために、何千もの分子が協力してはたらいています。しかし、細胞内で特定の分子の機能を解析するためには、観察したい分子だけを光らせなければなりません。そこで、神経細胞の活動やホルモンの分泌を直接観察するための蛍光タンパク質センサーを開発し、細胞や個体の生理現象を直接目で捉えることに取り組んでいます。この技術開発により、腸からどのようなしくみで脳へ情報を伝達し、記憶・学習や情動、代謝や免疫機能などを調節するのか解明を目指しています。

 これまでに、細胞内のcAMPやcGMPといった、細胞内のシグナル分子や細胞内のグルコースや乳酸、ピルビン酸やATPといった代謝に関係する分子を直接目で見るための蛍光タンパク質センサーの開発に成功しています。これらの蛍光タンパク質センサーを組み合わせて、脳と腸(または腸と脳)の機能連関の破綻によっておこる認知症などの認知・記憶障害、自閉スペクトラム症、統合失調症やうつ病などの精神神経疾患、糖尿病や肥満症などの代謝疾患などの発症メカニズムの解明に取り組んでいます。



細胞内cAMP(マゼンタ)およびcGMP濃度変化(緑)測定とメダカの心臓


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