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スペルミジンの経口摂取が認知機能を改善するスペルミジンはオートファジーを促進することが知られているポリアミンです。体内及び腸内で産生されますがその生産量は老化により減少していきます。このスペルミジンはマウスの腹腔及び脳に注射投与することによって記憶力が急激に上昇することが明らかになっています。そこで、本論文ではスペルミジンの経口投与がどのような影響を与えるのかを明らかにしました。
研究チームはまず、標識したスペルミジンを高齢のマウスに与えることによって経口摂取したスペルミジンが血液脳関門を超えて脳に到達できるのかを調べました。その結果マウスの脳で標識スペルミジンが検出され、経口摂取したスペルミジンが脳に直接作用することができることが明らかになりました。そこで、モリスの水迷路などの認知機能のテストを行い、脳へ到達したスペルミジンが高齢マウスの認知機能にどのような影響を与えるのかを調べると、空間学習能力や記憶力の改善が見られました。さらにその分子機構を調べると、海馬でeIF5Aのヒプシン化やミトコンドリアでの酸素消費量の上昇が起こっていることがわかりました。
次に研究チームは、ショウジョウバエへのスペルミジン経口投与が脳でのオートファジーにどのような影響を与えるのかについて調べました。マウスと同様にスペルミジンの経口投与によって、脳のミトコンドリア酸素消費量は上昇しましたが、オートファジーで重要な働きをするAtg7をノックアウトしたショウジョウバエでは酸素消費量の上昇は抑制されました。そこで、研究チームはミトコンドリア選択的なオートファジーであるマイトファジーに注目し、マイトファジーで重要な役割を担っているPink1/Parkinをノックダウンし、その影響を調べました。すると、ミトコンドリアの酸素消費量の上昇は抑制され、さらにスペルミジンの投与で観察されていた記憶力の改善も抑制されました。
最後に研究チームは、ヒトのスペルミジン摂取が認知機能にどのような影響を与えるのかを調べました。その結果、食事に含まれるスペルミジンの量と認知機能の低下には負の相関がみられました。この結果は、スペルミジンの摂取が認知機能の低下を抑制することを示唆しています
以上のことから、スペルミジンの経口投与が異なる種にわたって一貫して認知機能を改善することが明らかになりました。今後、スペルミジンの作用機序が明らかになっていけば、認知機能障害に苦しむ人を減らせるかもしれません。
紹介論文: Dietary spermidine improves cognitive function. Schroeder et al., Cell Reports 35, 108985, 2021