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カプサイシンが血糖値を正常化する

  2型糖尿病(T2DM)は2015年の段階で4億人以上の症例数に達する公衆衛生上の大きな脅威です。T2DMはインスリンの分泌低下やインスリン抵抗性によって、血糖の量が増加する病気です。近年、唐辛子の辛味の主成分であるカプサイシン(CAP)の摂取が、2型糖尿病の有病率の低下に関連することが報告されました。しかし、CAPによる血糖量の調節作用の根底にあるメカニズムは不明な点が多くありました。

  栄養素摂取に応答して小腸内分泌L細胞から分泌されるペプチドホルモンのGLP-1は、血糖値の低下を促すインスリンの分泌を促進します。また、リトコール酸(LCA)は主に腸内細菌のバクテロイデス属により産生される胆汁酸(BA)の一種で、Gタンパク質共役型受容体5(TGR5)に結合することでGLP-1分泌を増強します。著者らは、CAPによる血糖量への有益な効果のメカニズムには、腸内細菌叢-BA-GLP-1軸が存在することを仮定し、その潜在的な役割を明らかにすることを目指しました。

  この研究では、高脂肪食または高脂肪食にCAPを加えた食餌を8週間与えたマウスを比較する実験を行いました。結果として、CAPは①高脂肪食による体重の増加と脂肪組織の蓄積を抑制すること、②腸内細菌叢におけるバクテロイデス属の存在量を増加させること、③血漿中のLCAを増加させること、④血漿中のGLP-1を増加させることが明らかになりました。また、CAPの効果は、抗生物質の投与により無効化され、糞便移植により別のマウスに移植可能であることから、腸内細菌叢に大きく依存していることが確認されました。

 これらの結果から、CAPはバクテロイデス属の増加を主とした腸内細菌叢のリモデリングを介して血漿LCAレベルの上昇を引き起こし、LCAがTGR5に作用することで血漿GLP-1レベルが上昇する。そして、GLP-1はインスリンの分泌を増強することで血糖量の調節を行うといった腸内細菌叢-BA-GLP-1軸の役割が明らかになりました。

 今後、本研究にて示された腸内細菌叢-BA-GLP-1軸が、糖尿病の新しい有益な治療標的となることを期待しています。

紹介論文:Capsaicin improves glucose homeostasis by enhancing glucagon-like peptide-1 secretion through the regulation of bile acid metabolism via the remodeling of the gut microbiota in male mice., Hui et al., FASEB Journal. 2020 34:8558-8573.

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