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温度による性決定のメカニズム

動物のオス・メスはいつ、どのように決定されるのでしょうか。実は、その仕組みは動物群によって大きく異なります。ヒトをはじめとする哺乳類は、性染色体の組み合わせによって決定されます。例えば、性染色体がXXならば女性に、XYならば男性になります。一方、爬虫類の一部では、胚発生の温度によって性が決定されます。なぜこのような仕組みを持ったのかはいまだ謎ですが、地球環境が変わり、メスのみしか生まれないといった状況になると、種が絶滅してしまう危険性もあるため、温度依存的な性決定のメカニズムの解明が、急がれています。

今回、中国の浙江万里学院と米国デューク大学が共同で発表した論文では、ミシシッピアカミミガメにおける、温度依存的な性決定の分子メカニズムを明らかにしました。アカミミガメは、胚発生が26度でおこるとオスに、31度ではメスになることが知られています。先行研究では、生殖原基において、脱メチル化酵素Kdm6bの発現が、26度で上昇すること、そしてKdm6bによるエピジェネティックな遺伝子発現制御が、オス化に必要なDmrt1の発現誘導に必須であるということがわかっていました。

そこで、今回の研究では、このシグナルを調整する上流因子の特定を試みました。さまざまな候補因子の中から、環境要因によって活性が調整される転写因子STAT3にたどり着きました。実験により、メスを誘導する31度で、STAT3のリン酸化が亢進し、さらにKdm6bに結合することを明らかにしました。このとき。STAT3のリン酸化を阻害する薬剤を投与すると、オス化を誘導するDmrt1の発現が亢進し、オスが生まれる確率が高くなりました。このことから、STAT3は、31度でリン酸化されることで、Kdm6bの抑制因子としてはたらき、生殖組織をメス型にしていると考えられます。また、温度変化をSTAT3のリン酸化に転換するメカニズムとして、カルシウムシグナルに着目しました。生殖腺由来の細胞において、温度を26度から36度にあげるとカルシウムが流入し、STAT3がリン酸化されることが示しました。

温度感受性カルシウムチャネルの同定や、STATリン酸化するメカニズムなどは、まだ明らかになってはいません。しかし、著者らの今後の展望として、候補因子が挙げられており、カメの温度依存的性決定のメカニズム全貌が明らかになる日は近いかもしれません。

紹介論文: Weber et al., Science 368, 303-306, 2020

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