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胎盤由来因子が肝オルガノイドの成長に寄与ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来オルガノイドは、再生医療への応用が期待されています。しかし、現在のオルガノイドはサイズが小さく、機能も限定的であることから、その実用化には課題が残されています。
著者らは肝臓のサイズ制御に着目し、肝成長を促進する要因を探索するため、マウス胚における胎盤由来血流および酸素レベルを可視化しました。その結果、胎盤からの血液灌流は E10.5 に開始し、さらに灌流が腹側葉に集中していることが明らかになりました。腹側葉の肝前駆細胞は背側葉と比較して有意に高い増殖能を示していました。また、E10.5 では灌流が開始しているにもかかわらず肝臓は低酸素状態にあり、E11.5 になると酸素化が進行することも確認されました。
さらに、公開データベースに収載されたマウスおよびヒトの胎盤・肝臓マイクロアレイデータを用いた胎盤–肝臓相互作用解析により、肝芽細胞の増殖に関与する可能性の高い5つの胎盤由来因子が同定されました。このうち IL-1α は、低酸素条件下で肝前駆細胞の増殖を促進し、マウス胎児肝臓の成長を効率よく誘導することが示されました。さらに、hiPSC 由来肝芽細胞・内皮細胞・間葉系細胞から構成される hiPSC 肝オルガノイドに IL-1α を添加したところ、その成長が顕著に促進されました。IL-1α による肝成長促進には、炎症シグナル伝達経路(SAA1–TLR2–CCL20–CCR6 経路)が関与する可能性も示唆されました。
加えて、E11.5 で観察される酸素化の進行は、IL-1α により増加した肝前駆細胞において、オルガノイドのサイズ拡大と肝機能の獲得に寄与することが明らかになりました。
以上より、低酸素条件下での胎盤由来因子(IL-1α)による処理は、肝前駆細胞の増殖を効率的に誘導し、ヒト肝オルガノイドの成長を促進する有力な培養技術であることが示されました。
紹介論文: Placenta-derived factors contribute to human iPSC-liver organoid growth. Nat Commun. 2025 Mar 13;16(1):2493