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腸から脳へのシグナル伝達でタンパク質の摂取を「避ける」仕組み

体調を崩して食欲が落ち、筋肉も減ってしまったときこそ、身体はタンパク質を必要としていると思われてきました。しかし、本研究では、そのような状態から回復中のマウスが、自発的にタンパク質を避けるという意外な行動を示すことが明らかになりました。

筆者らは、1日絶食させたマウスに三大栄養素(高タンパク・高脂肪・高炭水化物)のいずれかの餌を与え、比較しました。その結果、高タンパク食を与えられたマウスだけが、極端に摂取量を減らすことが観察されました。

この「タンパク質忌避」の原因を探るため、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸を個別に与える実験を行ったところ、特にグルタミン、リジン、スレオニンの3種において、摂食抑制と強い毒性反応(体重減少や死亡率の増加)が見られました。これらのアミノ酸は腸内で分解される過程で、毒性を持つアンモニアを多く産生することが確認され、タンパク質忌避の原因がアンモニアの蓄積である可能性が浮上しました。

アンモニアが体内でどのように感知されているかを調べるため、筆者らは腸に存在するEC細胞(クロム親和性細胞)に着目しました。この細胞には、ワサビの辛味成分などにも反応するTRPA1チャネルが発現しており、アンモニアを検知してセロトニンを放出することがわかりました。また、TRPA1をノックアウトさせたマウスでは、アンモニア刺激に応じたセロトニン放出が起こらず、タンパク質を避ける行動も見られませんでした。

さらに、この反応が味覚によるものではないことを検証するため、マウスの胃に直接アンモニアを投与する実験を行いました。その結果、味覚を介さない状態でも、脳幹の孤束核(NTS)において強い神経活動が認められました。一方で、腸からの情報を伝える「迷走神経」を遮断したマウスや、EC細胞からのセロトニン合成を阻害したマウスでは、タンパク質の忌避行動は見られませんでした。

以上の結果より、腸がアンモニアの毒性を感知するとEC細胞を介してセロトニンを放出し、迷走神経を通じて脳に摂食抑制のシグナルを伝達するという新たな腸−脳経路が存在することが明らかになりました。この経路は、過剰なタンパク質摂取から生体を守るための行動制御メカニズムであると考えられます。

紹介論文: Gut-to-brain signaling restricts dietary protein intake during recovery from catabolic statesCell, 2025,

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