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「愛情ホルモン」オキシトシンは、赤ちゃんマウスのSOSを制御するオキシトシンは脳の視床下部でつくられる物質で、愛情や親子の絆、社会的な結びつきの形成、養育行動など、さまざまな社会行動をコントロールしていることが知られています。しかし、生まれたばかりの時期におけるオキシトシンの役割は、これまで詳しく分かっていませんでした。なぜなら、この時期の小さくデリケートな脳を研究するための精密なツールが少ないためです。
そこで、この研究チームは、光を当てることで特定のニューロンの活動を操作する「光遺伝学」という技術を用い、マウスを傷つけたり機械につなげたりすることなく、オキシトシンを分泌するニューロンをピンポイントで抑制する技術を開発しました。これを用いて、生まれたばかりの仔マウスの行動を解析する実験を行いました。
はじめに、生後2週間の仔マウスを母親から3時間隔離し、再び会わせた後の行動を調べました。すると、隔離された仔マウスは、隔離されていない仔マウスに比べ、より積極的に母親に近づき、母乳を飲んだり、人間には聞こえない超音波発声という鳴き声の頻度が著しく増えたりすることが分かりました。そして、この超音波発声をしているとき、脳内のオキシトシンを分泌するニューロンが活動していることも分かりました。
次に、オキシトシンのはたらきを阻害することで、それらの行動がどのように変化するのかを調べました。全身のオキシトシン受容体を阻害する薬剤を仔マウスに投与すると、母乳を飲む時間が短くなり、超音波発声の頻度も減少しました。一方で、光遺伝学ツールを用いて、オキシトシン分泌ニューロンの活動だけを狙って抑制すると、母乳を飲む時間は変化せず、超音波発声の頻度だけが減少しました。
これらの結果から、生まれて間もない時期においてオキシトシンは、将来的なコミュニケーション能力の基礎となる発声(鳴き声)を調節するのに重要な役割を果たしていると考えられます。この成果は、自閉スペクトラム症など、社会行動やコミュニケーションに困難を抱える神経疾患の、発症メカニズムの解明にも貢献することが期待されます。
紹介論文: Oxytocin signaling regulates maternally directed behavior during early lifeScience 11 Sep 2025