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性行動調節しくみ

内側視床下部前部(MPOA)は、性的二形成を示す脳領域である。MPOA内の性的二形核(SDN)は性差の解明のために研究されてきたが、SDNの解剖学的・生理学的構造は完全には解明されていない。本論文では、性差に関与するSDNニューロンの投射先や神経伝達物質を特定し、これらのニューロンの出現メカニズムと性行動における役割を解明した。

まず、SDNで豊富に発現するCa2+結合タンパク質(Ca2+トランスポーター)カルビンジンD-28KをコードするCalb1遺伝子の制御下でCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウスを用い、MPOAへ軸索内を順行性に輸送されるWGAを注入し、投射先を可視化した。その結果、Calbニューロンは、腹側被蓋野(VTA)に投射していた。次に、逆行性ウイルスベクターをVTAに注入し、Calbニューロンがオス特異的にMPOAのSDNに集中して存在していることを明らかにした。さらに、VTAへ投射するCalbニューロンはドーパミンではなく、GABAを産生することを示した。以上のことから、SDNニューロンのうち、VTAに投射しドーパミン系と連結するGABAニューロン(CalbVTAニューロン)が、オスで豊富に存在することが明らかになった。

また、出生後初期と思春期前後に分泌されるアンドロゲンを制御した際の、CalbVTAニューロンの割合を調べた。その結果、CalbVTAニューロンの出現には、出生後初期と思春期前後に作用する、二段階の精巣アンドロゲン作用の両方が必要であることが判明した。さらに、CalbVTAニューロンのケモジェネティック解析、およびMPOAにおけるCalb1のノックダウン実験を実施したところ、これらのニューロンが減少するとオスの性行動が抑制されることが示された。

以上より、精巣アンドロゲンの二段階の作用によってMPOAからVTAへのオス特異的な神経経路が形成され、これがドーパミン系と連結することで、オスの性行動を調整していることが示唆された。

紹介論文: Two-Step Actions of Testicular Androgens in the Organization of a Male-Specific Neural Pathway from the Medial Preoptic Area to the Ventral Tegmental Area for Modulating Sexually Motivated Behavior. J Neurosci. 2023 Nov 1;43(44):7322-7336.

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