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感染症を防ぐため、巣を「改築」するアリ

人間やサル、アリなどの社会性の動物は、集団内に病気の個体がいると、その個体を避けるように社会行動のネットワークを調節します。これは感染の拡大を防ぐためです。さらに私たち人間は、都市や建物といった物理的な生活空間を調節することでも、感染の拡大を防ぎます。都市や道路を封鎖して人の行き来を減らしたり、部屋の机や椅子を減らすことで滞在する人の密度を調節したりといった取り組みがその例です。

英国ブリストル大学のある研究チームは、このような「物理的な空間」を調節する感染予防のしくみが、人間以外にもあるのではないかと考えました。そこで、研究チームは、アリの一種であるクロヤマアリを対象にして、この仮説を検証しました。

はじめに研究チームは、病原体の感染がクロヤマアリの巣作りにどう影響するかを、巣の表面観察や内部構造のCTスキャンによって解析しました。解析の結果、まず巣の入り口について、感染したアリがいる巣は、いない巣よりも入り口どうしが離されていることが明らかになりました。これは、入口の間隔を広げることで、アリどうしの接触を減らし、感染の拡大を抑える効果があると考えられます。

次に、巣の内部に目を向けると、アリの巣には女王アリや幼虫、食糧保管のための小部屋があります。病原体に感染したアリがいる巣では、それらの小部屋は、長くて曲がりくねったトンネルの先にあり、巣の中心から離れた場所に配置されていました。これにより、巣内部の移動効率が低下し、病原体の伝播速度が効果的に抑制されると考えられます。

この研究で明らかになったクロヤマアリの巣作りの特徴は、感染拡大を抑制するために、長い進化の過程で獲得した戦略だと考えられます。研究チームは、この研究成果を人間社会の感染症対策のインスピレーションにもなり得るものだとしています。

紹介論文: Architectural immunity: Ants alter their nest networks to prevent epidemics. Science 2025 Oct 16; 390(6770):266-271.

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