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妊娠中の母親のストレスが小児アトピー性皮膚炎の原因?アトピー性皮膚炎は、特に肘や膝といった関節の部分など、よく曲げ伸ばししたり、こすれたりしやすい場所に湿疹(ほっしん)ができ、強いかゆみを引き起こす病気です。
これまでの調査でも、「お母さんが妊娠中にストレスを感じると、生まれてくる子どもがアトピー性皮膚炎になるリスクが高まるのではないか」と言われてきました。しかし、「なぜそうなるのか?」という詳しい仕組みは、これまでわかっていませんでした。今回の研究では、お母さんの体内でストレスホルモンが増えることが引き金となり、お腹の赤ちゃん(胎児)の「神経」と「免疫」のつながりに異常が起きることが、アトピー性皮膚炎の発症に関係していると突き止められました。
研究チームは、妊娠中のマウスにストレス(1日に3回、30分間強い光の下で動けなくする)を与える実験を行いました。その結果、ストレスを受けたお母さんから生まれた子マウスは、ストレスを与えなかったお母さんから生まれた子マウスに比べ、わずかな刺激にも敏感に反応するようになりました。さらに刺激が続くと、その部分の皮膚に炎症が起きました。皮膚の組織を詳しく調べると、神経が伸びやすくなっていることがわかりました。また、アレルギー反応に関わる「マスト細胞」(免疫細胞の一種)で、500以上の遺伝子の働きが変化していました。ストレスを受けた子マウスのマスト細胞は異常に活発になり、かゆみや炎症の原因となる物質を過剰に放出していることも確認されました。
次に、研究チームはお母さんのストレスが「どのように」赤ちゃんに伝わるかを調べました。その結果、お母さんがストレスを感じると、お腹の赤ちゃんを守っている**「羊水」の中のストレスホルモン濃度が上がることがわかりました。この羊水中のホルモンが、赤ちゃんのマスト細胞を活発にしていたのです。これは、培養した細胞を使った実験でも確かめられました。さらに、お母さんマウスにホルモンの異常を抑える薬を与えたところ、生まれた子マウスの免疫の異常や湿疹の発症が抑えられました。
これらの結果は、妊娠中のストレスによって羊水の中のストレスホルモンが変動することが、お腹の赤ちゃんのマスト細胞(免疫)の遺伝子の働きや、神経の構造を変えてしまい、それが子どものアトピー性皮膚炎の発症につながることを示しています。
この研究は、妊娠中にお母さんが受けるストレスを減らすことが、お母さん自身のこころの健康のためだけでなく、子どものアトピー性皮膚炎を防ぐためにも重要である可能性を示唆しています。さらに、この発見が、将来的に子どものアトピー性皮膚炎の新しい治療法の開発に役立つことが期待されます。
紹介論文: Maternal stress triggers early-life eczema through fetal mast cell programming.Nature 646, 161–170 (2025)