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睡眠不足は、腸のROSを介して短命を引き起こす人間をはじめ、多くの生き物の体には、約24時間のリズムを生み出す「概日リズム」と呼ばれる仕組みがあります。これは、日常の生活リズムを整えるだけでなく、植物が花を咲かせるタイミングや、微生物が活動を始める時間帯まで制御しています。このように、生命にとって非常に重要な仕組みである概日リズムですが、その中でも特に驚くほど正確な概日リズムを持つ生物としてシアノバクテリアが知られています。シアノバクテリアは、それぞれの細胞が独立しているにも関わらず、ほぼズレなく完璧な24時間周期を維持することができます。これは、「転写・翻訳フィードバックループ(TTFL)」と呼ばれる仕組みと「翻訳後振動(PTO)」と呼ばれる仕組みの2つにより成り立っていると考えられてきましたが、その詳細はわかっておらず、非常に小さな細胞内環境においてどのように、この概日リズムが維持されているのかは不明のままでした。
筆者らは、PTOを構成するタンパク質を蛍光標識し、GUVという脂質の膜に封入して観察することによって、極小の細胞内環境を再現することに成功しました。また、この観察結果から、1) タンパク質濃度に依存してPTOを起こす割合が高くなること、2) PTOタンパク質と膜が相互作用を起こしPTOを阻害すること、3) タンパク質濃度がガンマ分布に従う「ばらつき」を見せることなどを明らかにしました。
また、この解析結果をもとに概日リズムを再現する数理モデルを構築し、このモデルを用いた解析を行うことにより、PTOは個々の細胞の概日リズムの正確さを調節する一方で、TTFLが細胞同士の概日リズムの同期を担っていることを明らかにしました。
紹介論文: Reconstitution of circadian clock in synthetic cells reveals principles of timekeeping. Nature Communications 16, 6686 (2025)