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睡眠不足はサイトカインストームを引き起こす

一般的な成人は1日に6〜8時間の睡眠が必要とされているが、2019年の国民健康・栄養調査によれば、6時間未満の睡眠しかとっていない人は日本人の約4割にのぼる。この深刻な日本人の慢性的な睡眠不足は、健康問題への影響はもちろん、生産性の低下によって経済的損失までにもつながっている。

睡眠は記憶の整理、疲労回復、免疫機能の向上、さらには食欲の調節などに寄与しており、睡眠不足は頭痛やめまいといった身体症状、抑うつ感などの精神的影響、記憶力の低下、生活習慣病のリスク増加、免疫機能の低下、さらには死亡リスクの上昇にまでつながることが知られている。しかし、これらの症状がどのような分子メカニズムによって引き起こされるのかは、これまで十分には解明されていなかった。

本研究では、モデル動物としてマウスを用い、効率的かつ自動化が可能な睡眠不足誘導法を新たに開発した。その方法により作成した睡眠不足モデルマウスを用いて、長期間の睡眠不足が引き起こす病態を分子レベルで解析した。

まず、組織解析および血液成分の分析を行った結果、臓器・組織の損傷、ALT・AST・尿素値の上昇、好中球の浸潤、小腸における活性酸素レベルの上昇などが確認された。さらに遺伝子発現解析では、免疫応答に関与する遺伝子群の発現が有意に増加しており、これらの変化は免疫細胞の異常活性化に起因するサイトカインストーム症候群を発症していることが示唆された。

次に、睡眠は脳によって制御される現象であることから、研究チームは脳由来の因子が全身性の炎症に関与している可能性に着目した。特に、筆者らは睡眠促進作用を持つプロスタグランジンD₂(PGD₂)に注目した。睡眠不足モデルマウスでは、脳内PGD₂の産生が増加し、ABCC4を介してPGD₂が血中に排出されることが確認された。

さらに、Abcc4ノックアウトマウスを用いた解析では、PGD₂の排出抑制により好中球の動員が抑えられ、炎症性サイトカインの産生も減少し、睡眠不足による死亡率が有意に低下した。加えて、PGD₂の産生を阻害することで、または、PGD₂の受容体であるDP1に対する拮抗薬を投与することでも、同様に好中球増加とサイトカイン産生が抑制され、死亡率も低下することがあきらかになった。

本研究は、睡眠不足が引き起こす健康被害の分子機構を明らかにしただけでなく、新たな睡眠不足モデル作成方法を開発した点も画期的な論文と言えるだろう。

紹介論文: Prolonged sleep deprivation induces a cytokine-storm-like syndrome in mammals. Cell, 2023.

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