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ABCC4は神経膠腫の進行と再発を抑制神経膠腫は、情報伝達を行うニューロンを支えるグリア細胞が癌化することによって生じる病気です。近年、癌細胞では、cAMPやcGMPといった環状ヌクレオチドを含むシグナル伝達物質の細胞外放出を行う遺伝子である、ABCC4の発現異常が注目されています。cAMPやcGMPは、細胞の成長、分化、生存を制御する細胞シグナル伝達経路の制御に重要であるため、シグナル伝達に異常が生じると、がんの発生と進行に影響を及ぼす可能性があります。しかし、神経膠腫の進行や再発に関与するメカニズムは明らかになっていません。そこで、本研究ではABCC4の神経膠腫の進行、再発における役割を明らかにしました。
本研究では、まず神経膠腫の患者サンプルの解析を行い、原発性と比較し、再発性のサンプルについて、cAMPは有意差がありませんでしたが、cGMP含量は有意に高いことを示し、この原因がABCC4の発現上昇によることを明らかにしました。次に、ABCC4を高発現させたヒト神経膠腫細胞株において、細胞外のcGMP濃度が上昇し、それに伴い細胞内cGMP濃度が減少することで、cGMPのターゲットであるPKGの活性が低下することが明らかになりました。また同時に、遊走や浸潤といった癌細胞に特徴的な形質を示しました。ABCC4を低発現した細胞では、逆の結果が得られました。さらに、この現象が生体内で起こるのかを確認するため、ヒト神経膠腫細胞を移植したマウスにおいても、ABCC4がcGMP-PKGシグナル伝達を介し、神経膠腫の進行を制御することを明らかにしました。最後にこのマウスに対して、ABCC4の発現を上昇させるアスピリンを投与することで、神経膠腫が縮小することが分かりました。
以上より、ABCC4はcGMP-PKGシグナル伝達経路を抑制することで、神経膠腫の進行および再発を抑制する腫瘍抑制因子であることを明らかにしました。in vitro、in vivo解析では、ABCC4が細胞内cGMP濃度とPKGの活性化を制御し、神経膠腫の腫瘍形成と浸潤能に寄与していることも示唆されました。またアスピリンはABCC4の修復を通じて、神経膠腫の進行を抑制することから、ABCC4はがん治療のターゲットとなる可能性を示唆しています。
紹介論文: ABCC4 suppresses glioblastoma progression and recurrence by restraining cGMP-PKG signallingBritish Journal of Cancer, 130, 1324-1336, 2024.