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アリの血液脳関門によるカースト特異的な行動制御

 アリのコロニーでは、同じ遺伝子を持つ個体でも「働きアリ」や「兵隊アリ」といった異なるカーストに分かれ、異なる行動を担います。このような行動の違いを決めるのが、昆虫の成長を制御するホルモンとして知られる、幼若ホルモンです。羽化したばかりの時期に、脳内の幼若ホルモン濃度が高いと、採餌行動を示す「働きアリ」になります。逆に、脳内の幼若ホルモン濃度が低いと採餌を行わない「兵隊アリ」になります。しかし、どのようにして脳内の幼若ホルモン濃度が調節されるのかは、これまでは詳しくは分かっていませんでした。

 そこでペンシルベニア大学のある研究チームは、脳内のニューロンやグリア細胞において、「働きアリ」と「兵隊アリ」とのあいだにどのような違いがあるのかを、解析しました。その結果、「兵隊アリ」の脳では、SG2と呼ばれる細胞の細胞質に、幼若ホルモンの分解酵素が多く発現していることがわかりました。SG2細胞とは、血液と脳とを隔てる構造である、血液脳関門を構成する細胞です。つまり、SG2細胞は、まるで門番のように、血中の幼若ホルモンが脳へと透過するのを阻害することで、そのアリの行動を決定していると考えられます。

 これを裏付けるために、研究チームらは、分子生物学的手法を駆使して、「兵隊アリ」のSG2細胞における幼若ホルモン分解酵素の発現を抑制し、行動の変化を観察しました。その結果、「兵隊アリ」が本来は行わないはずの、採餌行動を示すようになることが分かりました。

 さらに、ショウジョウバエのSG2細胞に、幼若ホルモンの分解酵素を強制的に発現させると、餌への関心や探索行動が減少することも分かりました。この結果の驚くべき点は、社会性を持たず、単独で餌を採るショウジョウバエにおいても、アリと同様のメカニズムで採餌行動が調節されたということです。今後、このメカニズムが哺乳類にも存在するのかを検証する研究が進められることが期待されます。

紹介論文: Hormonal gatekeeping via the blood-brain barrier governs caste-specific behavior in antsCell, 186, 4289-4309, 2023.

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