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腫瘍内の細菌は癌の異質性に関わる

 腫瘍内の細菌は腫瘍微小環境(TME)の重要な構成要素です。このTMEは腫瘍細胞の増殖や転移をサポートしたり、免疫細胞の攻撃から守ったりすることで知られています。

 先行研究では、腫瘍の異質性はクローン増殖中のがん細胞の遺伝子変異だけでなく、TME内の環境が腫瘍形成に重要であると明らかになりました。また、主要なヒトの癌のほとんどに細菌が含まれていることも示されています。しかし従来の研究ではTME内の細菌の局在やこの細菌がTMEにどのような影響を与えるかは不明でした。そのため本研究では、口腔扁平上皮癌(OSCC)と大腸癌(CRC)を使って、腫瘍内の細菌の分布、影響また、細胞と細菌の相互作用を詳しく解析しました。

 まず筆者らは患者組織内の腫瘍内細菌の同定とin situ位置を決定するため、10x Visium空間トランスクリプトミクスを用いて解析を行いました。

 次に、GeoMxデジタル空間プロファイリングを用いて、細菌群集は、細菌陰性の腫瘍領域と比較して、細胞の機能を変化させ、抗腫瘍免疫や、癌上皮細胞の移動に影響を及ぼしていることを発見しました。また、筆者らは単一細胞 RNA シーケンス法を開発し、これを患者の腫瘍に適用することで、細菌と相互作用する宿主細胞を特定し、炎症、転移、細胞休眠、DNA 修復に関与する転写経路の変化を明らかにしました。

 本研究は、細菌に感染したがん細胞が単一細胞として周囲の環境に侵入し、骨髄由来の免疫細胞を細菌のいる場所に引き寄せることを示しています。さらに、腫瘍内の細菌の分布はランダムではなく、がんの進行を助ける免疫細胞や上皮細胞が集まる特定の環境に組織化されていることを明らかにしました。この研究によりがん治療や診断において細菌が新たなターゲットになることが期待されます。

紹介論文: Effect of the intratumoral microbiota on spatial and cellular heterogeneity in cancer. Nature, 611, 811-7. 2022.

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