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乳酸によるペリサイト機能と血液脳関門の維持血液脳関門(BBB)を構成する内皮細胞は解糖系に依存した代謝を行っており、乳酸を大量に産生しています。しかしこの乳酸が血管内皮細胞からどのように利用されているのかは十分に理解されていませんでした。筆者らは、内皮細胞由来の乳酸が血管ペリサイトに取り込まれ、エネルギー生成経路の一部やアミノ酸生合成経路に寄与していることを明らかにしました。
内皮特異的にグルコーストランスポーターGLUT1を欠損させたマウスでは、ペリサイト被覆率が有意に減少し、BBB透過性が増加していることを見出しました。またこのマウスにおいて、Cadaverineおよびフィブリノーゲン染色によって、BBBの漏出が観察されました。
乳酸の細胞内動態を可視化するため、ヒト脳微小血管内皮細胞と、FRET型蛍光乳酸センサーLaconicを発現させたヒト脳血管ペリサイトの共培養を行いました。内皮細胞とペリサイトを接触させるとペリサイトでのFRET比は上昇し、内皮細胞内でGLUT1を欠損させると減少したことから、内皮細胞由来の乳酸がペリサイトへ取り込まれることが示唆されました。さらに、この内皮細胞由来の乳酸はモノカルボン酸トランスポーター(MCTs)を介しており、内皮細胞側のMCT1・MCT5から放出され、ペリサイト側のMCT12を経由して取り込まれていることも明らかにしました。ペリサイトにおける乳酸の代謝経路を追跡したところ、乳酸はピルビン酸に変換され、最終的にTCAサイクル中間体へ代謝されていることがわかりました。
乳酸を内皮特異的GLUT1欠損マウスに経口投与し、内皮細胞由来の乳酸がペリサイトに及ぼす機能をin vivoで実証しました。結果としてペリサイト被覆とBBB機能の回復が見られましたが、致死率について改善は見られませんでした。
これらの結果から、内皮細胞とペリサイト間の代謝的連携がBBB恒常性の維持に必須であり、内皮細胞による乳酸産生の阻害が、中枢神経系における血管ペリサイトの被覆喪失とBBB漏出に関与することが示されました。この知見はBBB破綻に関連する脳疾患の病態理解や治療法開発に重要な示唆を与えるものです。
紹介論文: Endothelium‐derived lactate is required for pericyte function and blood–brain barrier maintenance.The EMBO Journal, 41, e109890, 2022.