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求心性迷走神経ニューロンは、胃の膨張に反応する

 求心性迷走神経とは、腸から脳への情報伝達を担う神経です。摂食後、私たちの腸は、食物による機械的刺激や、食物中の栄養分子による化学的刺激を受けます。脳は、求心性迷走神経を介してこれらの情報を受け取り、消化吸収や食欲を調節します。求心性迷走神経には、様々な受容体を発現するニューロンが混在しています。しかし、どの受容体を発現するニューロンが、どこに分布し、どのような役割を担っているのかは、詳しくはわかっていませんでした。そこで、ハーバード大学のStephanらの研究チームは、様々な遺伝子組み換えマウスを駆使することで、各種受容体を発現するニューロンの分布と機能を、詳細に解析しました。

 小腸で栄養分子の感知を担うのは、腸内分泌L細胞と呼ばれる細胞です。L細胞は、腸内の栄養分子を感知すると、GLP-1と呼ばれるペプチドホルモンを分泌します。そこで研究チームは、求心性迷走神経のニューロンの中でも、GLP-1受容体を発現するニューロンの分布と機能を調査しました。解析の結果、GLP-1受容体を発現するニューロンは、胃の筋層に投射しており、小腸への栄養素の注入よりもむしろ、食物による胃の膨張に反応することが分かりました。つまり、化学的刺激に反応する予想されたニューロンは、実際には機械的刺激に反応していたのです

 さらに研究チームは、化学的刺激に反応するニューロンを同定するために、GPR65と呼ばれる受容体に注目しました。この受容体は、求心性迷走神経の一部のニューロンに発現していることだけが分かっており、その生理的役割は不明なままでした。解析の結果、GPR65を発現するニューロンは、腸絨毛の近くに投射し、小腸への栄養素の注入に反応することが明らかになりました。つまり、化学的刺激に反応していたのは、GLP-1受容体を発現するニューロンではなく、GPR65を発現するニューロンだったのです。

 生理的な反応に関連するニューロンの集団を遺伝学的に同定することは、神経科学分野の主要な目標のひとつです。この研究の成果は、腸から脳へのシグナル伝達を担う神経回路の研究に、重要な知見を提供するものです。

紹介論文: Sensory Neurons that Detect Stretch and Nutrients in the Digestive System Cell, 166, 209-221, 2016

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