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GLP-1の新たな役割の発見:副作用のない痛み緩和効果

 グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、消化管内の栄養素に応じて小腸や大腸から分泌される消化管ホルモンの1種です。分泌されたGLP-1はインスリンの分泌を促進し、血糖値上昇を抑制します。さらに、胃腸の蠕動運動を抑制し、満腹感を感じやすくさせます。これらの効果により、GLP-1はⅡ型糖尿病やメタボリックシンドロームの治療薬として活用されています。さらにGLP-1は中枢神経に作用し疼痛条件下で興奮性シナプスに影響を与えることが報告されています。しかし、GLP-1が末しょう神経にどのような影響をもたらすのか明らかになっていませんでした。

 そこで本研究の筆者らは、マウスの肢に赤外線刺激を行い、熱、痛み感受性を測定しました。すると、GLP-1を肢に投与したマウスは、高体温などの副作用なしで赤外線刺激に対する熱、痛み感受性が低下することが分かりました。そこで、熱や痛みを司るカプサイシン受容体(TRPV1)とGLP-1の相互作用について検討しました。

 株化細胞にTRPV1を強制発現させ、GLP-1受容体アンタゴニストであるexendin9-39を投与しました。その結果、exendin9-39はTRPV1に直接結合することが明らかになりました。さらに、パッチクランプ法を用いた実験によって、exendin9-39はTRPV1の細胞膜外側の表面に結合することが明らかになりました。

 次に、exendin9-39のうちどの配列が重要であるか確かめるために、様々なサイズのexendinを用意しTRPV1発現細胞で細胞内カルシウム動態を観察したところ、exendin20-29がTRPV1の活性に重要な部位であることが明らかになりました。さらに、exendin20-29を投与したマウスの肢に赤外線を当てると、熱・痛み感受性が低下しました。

 これらの結果から、GLP-1とその類似配列を持つ薬剤は、TRPV1に直接結合して活性を抑制し、熱・痛み感受性を低下させることが分かりました。今後はGLP-1が疼痛治療にも応用できる可能性があります。

紹介論文: GLP-1 and its derived peptides mediate pain relief through direct TRPV1 inhibition without affecting thermoregulation. Experimental & Molecular Medicine (2024)

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