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母と子の絆に関わるニューロンヒトをはじめとして哺乳類の乳児は、生まれながらにして母親と絆を築く傾向があります。母子間の絆は、乳児に対して安全に社会交流ができる場を提供し、子どもの社会性や感情の発達に重要な役割を果たすことが知られています。しかし、その神経メカニズムはこれまで不明でした。社会的行動をとるには、触覚や視覚など様々な感覚情報を上手く処理して統合する必要があります。
研究チームは、体内外の感覚情報を統合するノードとして働き、発達段階に応じて特性が変化するZona Incerta (ZI)ニューロンに注目しました。まず、母親と交流中の乳児マウスのZIニューロンの活動をファイバーフォトメトリー法で観察しました。その結果、母親との交流中にZIニューロンの中でもソマトスタチン陽性ニューロン(以下ZISSTニューロン)が活性化し、嗅覚や触覚といった複数の感覚情報を統合していることが示唆されました。さらに、ZISSTニューロンの活性化は、母親と離れるなどの孤立環境下における乳児のストレスの緩和や、乳児が母親と行う社会性の学習の促進に関与することが明らかになりました。最後に研究チームは、ZISSTニューロンはどの脳領域から情報を受けて統合し、そしてどこに統合した情報を渡すのか調べました。その結果ZISSTニューロンは、複数の脳の領域の中でもとりわけ大脳皮質に関連する領域で情報の授受を行っていることが分かりました。
大脳皮質の発達は、哺乳類の進化における大きな特徴の一つです。もう一つの哺乳類の特徴である母子の絆に関わるZISSTニューロンが大脳皮質に関連していることは、これら2つの特徴を結びつける大きな鍵となるかもしれません。また本研究では、乳児の社会行動の発達における神経基盤を解明しました。幼少期の社会経験の豊かさは、成長後の認知機能や感情の発達に大きな影響を与えます。今後ZISSTニューロンは、虐待された子どもや自閉スペクトラム症患者で見られる社会的発達障害に対する新たな治療法開発の糸口になることが期待されます。
紹介論文: Neurons for infant social behaviors in the mouse zona incerta. Science, Vol 385, Issue 6707, pp. 409-416, (2024),