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肥満は栄養素に対する脳の反応を鈍化させる

 肥満は、血管障害や代謝の異常により、様々な健康障害のリスクを高めます。しかし、食事や行動様式の改善によって減量(ダイエット)をしても、その後再び体重が増加するリバウンドが広く見られます。その原因の一つとして、食欲の制御の難しさが挙げられます。私たちの摂食行動は、味覚を介した嗜好性に加えて、消化管内の栄養素による様々なシグナルによって複雑に調節されます。

 UMC(アムステルダム大学医療センター)の研究チームは、肥満のヒトとそうでないヒトとのあいだの、胃内の糖や脂質が脳活動の変化に与える影響の違いに注目しました。マウスを用いた先行研究により、糖や脂質の投与によって、脳の線条体から神経伝達物質であるドーパミンが放出されることがわかっています。ドーパミンは、食物摂取の報酬性や動機づけに関わっています。そこで、研究チームは、肥満のヒトでは栄養素に対する脳の応答が鈍化しているのではないか、そしてそれは減量(ダイエット)によって元に戻るのではないかという仮説を立てました。

 仮説を検証するために、筆者らは、計58人の健康および肥満の男女を被験者とし、胃へ糖と脂質を胃内へ経鼻投与する試験を行いました。fMRIとSPECTにより、糖と脂質を投与した際に起こる脳活動の変化を解析すると、健康なヒトでは30分以内に「もう十分に栄養素を摂取した」ことを示す脳活動の変化が起きました。しかし、肥満のヒトの脳ではその変化がほとんど起こらず、さらに、肥満のヒトが12週間におよぶ食事制限プログラムによって体重を10%減量した後でも、それは変わりませんでした。

 最後に筆者らは、血中の糖やホルモンであるインスリン、グレリン、GLP-1の濃度の変化と、脳活動の変化との相関関係を分析しました。その結果、糖と脂質の投与による脳の反応は、それらの血中濃度変化とは相関がないことがわかりました。

 これらの結果から、肥満のヒトでは消化管内の栄養素に対する脳の応答が低下しており、それは体重を減らした後も長期的に持続することが示唆されました。さらに、消化管内の栄養素による脳活動の変化は、血中の栄養素やホルモンではない経路による可能性があるため、今後の研究により、その経路が明らかになることが期待されます。

紹介論文: van Galen et al., Brain responses to nutrients are severely impaired and not reversed by weight loss in humans with obesity: a randomized crossover study. Nature Medicine, 5, 1059-1072, 2023

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