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筋肉細胞にある概日時計の役割

 ヒトは、夜になれば眠くなり、朝になれば目が覚めお腹がすきます。このような毎日のルーティンを司るのは視交叉上核(SCN)と呼ばれる視床下部の一部です。SCNは中枢時計として交感神経やホルモン分泌を介して全身の組織に概日リズムの情報を送る重要な役割をしています。しかし、末しょう組織にも時間によって発現量が変化する時計遺伝子が存在しますが、その役割は不明でした。

 UPFの研究チームは骨格筋の概日時計遺伝子の役割に着目しました。時計遺伝子の一種であるBmal1を欠損したマウスでは筋肉組織の衰弱や代謝リズムの変化を呈することが知られています。そこで、全身でBmal1を欠損させたマウスを使用して、①骨格筋だけでBmal1を再発現させたマウス(Musecle-REマウス)、②SCNだけでBmal1を再発現させたマウス(Brain-REマウス)、③骨格筋とSCNだけでBmal1を再発現させたマウス(RE/REマウス)を作成しました。①-③のマウスの肢の筋肉を解析すると、③RE/REマウスでは筋肉組織の老化症状が緩和することが明らかになりました。また、これらのマウスの筋肉で発現する時計遺伝子を解析すると、Muscle-REマウスでは時計遺伝子の自律的な発現変動がほとんど現れないのに対し、Brain-REマウス、RE/REマウスでは時計遺伝子の発現変動がみられました。これらの結果から、中枢時計が末しょう時計を規則的に駆動するために必要だと明らかになりました。

  そこで、Brain-REマウスで発現変動をする時計遺伝子を詳細に解析すると、通常マウスやRE/REマウスより多くの遺伝子が発現変動を起こしていました。つまり、末しょう時計は中枢時計に制御されるだけでなく、中枢時計から送られるシグナルをフィルタリングすること、つまり中枢時計と末しょう時計の相互コミュニケーションが恒常的な遺伝子発現に重要だと明らかになりました。さらに筆者らは、中枢時計を他のシグナルで代替できるか検証しました。筋肉が衰弱している老齢マウスの食事時間を制限し、暗期の一部時間帯のみエサを与えることで、“摂食-絶食サイクル”を構築しました。このマウスの筋組織を解析すると、筋力が増加していることが明らかになりました。

 以上の結果から、末しょう時計はトップダウン的に末しょう時計を仔魚しているのではなく、相互コミュニケーションが恒常的な代謝に必要なこと、恒常的な概日リズムは老化症状を緩和することが明らかになりました。今後は、老化に伴う疾患に対して概日リズムの再構成が新たな治療アプローチになる可能性があります。

紹介論文: Kumar et al., Brain-muscle communication prevents muscle aging by maintaining daily physiology. Science, 384, 563-572, 2024

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