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ストレスを感じると肝臓から分泌される「リポカリン2」

 強い不安や恐怖を感じる不安障害は、全人口の約2%が罹患するとされる現代病の1つです。不安障害の発症には、神経伝達物質や神経伝達回路などの中枢機能だけでなく、ストレスホルモンなどの末しょう機能も関与することが明らかになっています。しかし、ストレス下で引き起こされる不安障害と、サイトカインの関連については明らかにされていませんでした。

 そこで筆者らは、ストレス下で血中濃度が上昇するサイトカインの1つであるリポカリン2に着目しました。大うつ病患者さんから採取した血液中では、健康状態の人と比較するとリポカリン2の濃度が上昇していました。さらに、大うつ病の治療後には、血中リポカリン2濃度が低下していることが分かりました。

 次に、ヒトの不安障害をマウスで模倣するために、狭い空間に一定時間マウスを拘束した、拘束モデルマウス(CRSマウス)を作成しました。マウスの不安感を測定する3つの行動試験を行うと、CRSマウスでは不安感が上昇していることが分かりました。さらに、血中のリポカリン2濃度も上昇していました。そこで、選択的セロトニン阻害剤の1種であるフルオキセチンをCRSマウスに投与すると、不安行動が減少し、血中リポカリン2濃度も減少しました。これらの結果から、リポカリン2濃度が上昇しているときは不安行動が増加し、リポカリン2濃度が低下すると不安行動が抑制されることが明らかになりました。

 次に、リポカリン2がどこから分泌されるのかを明らかにするため、CRSマウスを作成し、各臓器に含まれるリポカリン2遺伝子を解析したところ、肝臓で発現量が増加していることが分かりました。そこで、肝臓に発現するリポカリン2を阻害すると、CRSマウスの不安行動が抑制されることが明らかになりました。

 これらの結果から、肝臓から分泌されるサイトカインの1種であるリポカリン2はストレス環境下で発現が上昇し、不安行動を調節する役割があることが明らかになりました。今後は、ストレスを感じる脳と、肝臓がどのようなメカニズムで連携しているのか解明されることが期待されます。

紹介論文: Yan et al., Stress increases hepatic release of lipocalin 2 which contributes to anxiety-like behavior in mice. Nature communications. (2024)

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