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インスリン分泌の多様性膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞は、血糖値を下げる作用のあるインスリンを分泌します。インスリン分泌は、食後早い段階で起こる一過的な強い分泌(第1相)と、その後持続的に起こる分泌(第2相)からなる二相性分泌という時間経過を示します。これまでの研究から、一つのβ細胞の中に分布するインスリン分泌顆粒に多様性があり、第1相で分泌されやすい顆粒と第2相で分泌されやすい顆粒があることが知られています。一方、ランゲルハンス島内の個々のβ細胞を比較すると、インスリン分泌を引き起こす主要な細胞内シグナル分子であるカルシウムイオンの上昇パターンに細胞間で多様性があることもわかってきました。しかし、インスリンの分泌パターンに細胞間でどのような違いがあるかは未解明でした。
北京大学と広州国立大学らの研究チームは、マウス由来初代培養ランゲルハンス島で高速の顕微鏡イメージングを行うことでこの疑問に答えました。インスリン分泌顆粒に亜鉛イオンが多く含まれる性質を利用し、細胞膜非透過性の亜鉛可視化色素を外液中に加えた状態でグルコースを投与すると、β細胞からインスリンが開口分泌される様子を撮影できました。このとき、ランゲルハンス島内でβ細胞ごとに分泌頻度にばらつきがあることが分かり、全体の分泌回数の8割を占める分泌頻度上位の細胞を分泌しやすいβ細胞(Readily releasable β:RRβ)と定義しました。インスリンの開口分泌と細胞内のCa2+濃度変化の同時イメージングを行ったところ、分泌第2相の時間帯で細胞内Ca2+濃度が一定の細胞(Steady)と小刻みに振動する細胞(Oscillating)が観察されましたが、RRβはSteady細胞とOscillating細胞のどちらにも存在していました。そして、分泌第1相の時間帯で細胞内Ca2+濃度の上昇が早く起こる細胞ほど、細胞内Ca2+濃度変化とインスリン開口分泌のタイミングが同期しており、RRβである確率が高いことが分かりました。
肥満モデルマウスであるレプチン遺伝子欠損マウス(ob/obマウス)で同様の実験を行ったところ、分泌回数全体が減少したほか、RRβの比率も低下していました。ob/obマウスのRRβでは、分泌第2相の時間帯で細胞内Ca2+濃度が短時間の間上昇することが多く、その瞬間でのみインスリン開口分泌が起きる傾向にありました。
以上の結果から、ランゲルハンス島内ではβ細胞ごとにインスリン分泌パターンの多様性があり、分泌の起きやすさは細胞内Ca2+濃度変化のパターンと密接に結びついていること、病態モデルではその関係性が乱れていることが分かりました。本研究では単離したランゲルハンス島で実験を行っていますが、生体膵臓組織そのものを用いた研究知見とも合わせることで、将来的に糖尿病治療の新たな創薬標的発見に結びつくことが期待されます。
紹介論文: Peng et al. Readily releasable β cells with tight Ca2+–exocytosis coupling dictate biphasic glucose-stimulated insulin secretion Nature Metabolism 2024