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マウスは鏡に映る「自分」を「自分」だと認識できるのか

 鏡の前で「最近太ってきたかも」や「今日は化粧がうまくできてないかも」などと思ったことはありますか。私たちヒトは、「鏡に映る自分」を「自分」だと認識し、過去の姿を参照して「今日はいつもより〇〇だな」と思うことができます。しかし、多くの生物は、鏡に映る自分を自分だと認識できる能力(鏡像認知能力)を有していません。現在までに、ヒト、チンパンジー、イルカ、ホンソメワケベラなど限られた生物でのみ、鏡像認知能力が確認されています。

 本研究で筆者らは、マウスは鏡像認知能力を有していることを明らかにしました。具体的には、黒マウスを12日間鏡に馴化させたあと、麻酔下で額に白いインクを塗ります。白いインクを塗られたマウスは、黒いインクを塗られたマウスと比較してグルーミング(毛づくろい)時間が有意に長くなりました。これは、鏡を見ることで、自らの額に白いインクが塗られていることを認識し、それを取り除こうとしたと考えられます。つまりマウスは、「鏡に映っている白いインクがついたマウスは自分である」と判断できているのです。

 しかし、マウスが鏡像認知を示す(白インクを除去するためのグルーミングを行う)ためにはいくつか条件があります。 ① 事前に鏡に慣れ、鏡の仕組みを理解できていること ② 同系統のマウスとの社会経験があること ① ②の両者を満たさないマウスでは、グルーミング時間は増加しませんでした。おそらく「鏡に映っている白いインクがついたマウスは同種他個体である」と判断しているようです。 さらに筆者らは、腹側海馬cCA1ニューロンがマウスの鏡像認知能力に関与することを明らかにしました。vCA1ニューロンの活性を阻害すると、白インクを付けられた黒マウスのグルーミング時間は増加しませんでした。

以上の結果から、マウスにも鏡像認知能力があり、vCA1ニューロンが重要な役割を担っていることが明らかになりました。今後マウス以外の生物でも、鏡像認知能力の有無やそのメカニズムが明らかになることが期待されます。

紹介論文: Yokose et al. Visuotactile integration facilitates mirror-induced self-directed behavior through activation of hippocampal neuronal ensembles in mice. Neuron. 2024 Jan 17;112(2):306-318.e8.

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