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海馬におけるグリコーゲン代謝の加齢に伴う変化

 脳には活動電位を生じて神経活動の主体となるニューロンと、ニューロンを支持・栄養するグリア細胞が存在します。グリア細胞の中でも大多数を占めるのがアストロサイトで、海馬を構成するニューロンとアストロサイトの糖代謝は記憶形成に重要であることが知られていました。しかしそれらの知見は幼齢~若齢の動物で得られたものに限られ、海馬の機能と糖代謝の相関の年齢依存性は不明でした。筆者らは、生後30日(若齢)および生後1年(老齢)のマウスの海馬における糖代謝の年齢依存的な変化を、関連タンパク質の発現と分布の変化に着目して調べました。

 まずプロテオミクス解析により、若齢/老齢海馬におけるタンパク質の発現の変動について調べました。その結果、TCA回路、ピルビン酸代謝、グリコーゲン分解、乳酸代謝に関連するタンパク質の発現が加齢に伴い上昇傾向にあることが分かりました。

 次に上昇が見られたそれらのタンパク質について、アストロサイトとニューロンにおける発現と局在が加齢によりどのように変化するのかを調べました。タンパク質の発現量を比較する際には、若齢/老齢海馬由来のアストロサイトおよびニューロンを対象にしたqRT-PCRを、局在を調べる際には免疫蛍光染色画像を取得しての蛍光強度の測定を行いました。その結果、加齢に伴ってグリコーゲン分解酵素はアストロサイトとニューロンで増加し、ピルビン酸分解酵素やTCA回路関連酵素はアストロサイトよりもニューロンに局在するようになることが分かりました。

 さて、アストロサイトで産生される乳酸はモノカルボン酸トランスポーター(MCT)を介してニューロンに輸送され、そのエネルギー源になると考えられています(アストロサイト・ニューロン乳酸シャトル仮説)。乳酸代謝関連酵素とMCTについてもアストロサイトとニューロンとで発現・局在を比べたところ、ニューロンでは乳酸代謝関連酵素が減少し、また乳酸放出を担うMCT1のアストロサイトにおける発現が減少することが分かりました

 最後に、全脳におけるミトコンドリア関連タンパク質のプロテオミクス解析を行ったところ、ミトコンドリアの移動・輸送に関わるタンパク質、とりわけニューロンの軸索にミトコンドリアを局在させるタンパク質の発現が減少していることが分かりました。

 以上の結果は、加齢に伴ってニューロンの糖代謝能が向上し、アストロサイトからの乳酸供給へのエネルギー的な依存性が減少することを示すものでした。他方、加齢に伴って記憶の統合・長期増強といった海馬の機能には減退が見られることについては、ニューロンにおけるミトコンドリアのダイナミクスの低下が関与することを示唆しました。

紹介論文: Drulis-Fajdasz et al. Aging-associated changes in hippocampal glycogen metabolism in mice. Evidence for and against astrocyte-to-neuron lactate shuttle. Glia, 66, 1481-1495, 2018.

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