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大腸の機械刺激感受性イオンチャネルが腹痛を媒介

 一般に、内臓痛は内臓の機械的な伸展・刺激によって引き起こされますが、大腸における機械刺激受容の機構の詳細は不明でした。本研究では、機械刺激や痛覚の受容に関与することが知られている感覚神経の陽イオンチャネルの中でもTRPV1とPiezo2の二つに注目し、大腸における求心性の機械刺激受容機構の一端を解明しました。

 まず、マウスの大腸にジフテリア毒素を発現させ、大腸のTRPV1ニューロンを減少させたところ、大腸の伸展刺激に伴う内臓運動応答(VMR)が抑制されました。このことから、TRPV1ニューロンが大腸の機械刺激受容に関与することが示唆されました。

 次に、マウスの大腸の後根神経節ニューロンを単離しqRT-PCRを行ったところ、TRPV1ニューロンのほとんどでPiezo2が発現していることが確認されました。さらに、マウスのTRPV1ニューロンに発現するPiezo2をノックダウンしたところ、大腸伸展刺激に伴うVMRが抑制されました。このことから、Piezo2がTRPV1ニューロンによる機械刺激の受容・伝達に関与することが示唆されました。

 続いて、その症状として腹痛が広く認められている過敏性腸症候群(IBS)および部分腸閉塞(PCO)の症状を再現したモデルマウスを作製し、TRPV1、Piezo2の両疾患における機械刺激受容への寄与を調べました。

 IBSモデルマウスの作製は、腸管の知覚過敏を誘導することが知られているZymosanの直腸投与により行いました。Piezo2をノックダウンしたマウスでモデルを作製したところ、野生型マウスを用いた場合に比べて大腸伸展刺激時のVMR が抑制されました。このことから、IBSにおける内臓痛にPiezo2が関与する可能性が示唆されました。

 PCOモデルマウスの作製は、直腸に微小なシリコンのリングを装着する処置を施すことで行いました。Piezo2をノックダウンしたマウスでPCO症状モデルを作製したところ、野生型マウスを用いた場合に比べて、大腸伸展刺激付与時のVMR が抑制されました。このことから、PCOにおける内臓痛の発生にもPiezo2が関与する可能性が示唆されました。

 最後に、内臓痛に関連するPCOの症状として知られている随意運動の減少とPiezo2との関連を調べました。オープンフィールドでのPCOモデルマウスの運動距離、運動時間を調べたところ、野生型マウスから作製したモデルマウスの運動距離・時間が健常マウスに比べて短縮した一方、Piezo2をノックダウンしたモデルマウスでは、野生型モデルマウスに比べて運動距離・時間が延長することが確認されました。これより、機械刺激受容への関与を介して、PCOにおける随意運動量ともPiezo2の機能が相関することが示唆されました。

 広汎な生理現象に関与すると考えられるTRPV1ニューロンの機能を変化させることによる影響など考慮すべき点は残りますが、健常・病的条件下での大腸の機械刺激受容機構の一端を解明した点で新規かつ有意義な報告がなされました。

紹介論文: Xie, Z. et al. Piezo2 channels expressed by colon-innervating TRPV1-lineage neurons mediate visceral mechanical hypersensitivity. Volume 111, Issue 4, 15 February 2023, Pages 526-538.e4 Neuron

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