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プロポリスと認知障害との関係

 プロポリスはミツバチによって収集される天然化合物です。本研究で使用されたブラジル産グリーンプロポリスはさまざまな化合物をふくみ、神経保護効果も報告されています。一方、メマンチンはアルツハイマー病治療薬であり、筆者らの先行研究によりKATPチャネルを阻害し、CaMKIIやCaMKIVのリン酸化を制御して認知機能を改善することが報告されています。本研究では、プロポリスをメマンチンと共に投与することで、メマンチンによる認知機能の改善が増強されることを示しました。

 筆者らはまずY字迷路などの行動試験をマウスに行わせました。その結果、プロポリス単体では効果がない一方、プロポリスとメマンチンを一度投与することにより、アルツハイマー病モデルマウスの行動試験の成績が改善することがわかりました。続いて筆者らはメマンチンが作用するKATPチャネルのサブユニットの一つであるKir6.2を過剰発現する神経細胞にメマンチンとプロポリスを作用させた際の応答を調べました。すると、細胞内Ca2+濃度の上昇が見られ、Ca2+濃度上昇の刺激を伝えるCaMKIIαの自己リン酸化の上昇も見られました。また、神経細胞をAβで処理し、アルツハイマー病の状態を再現すると細胞内ATP量が下がりましたが、メマンチンとプロポリスの投与により回復しました。

 続いて、メマンチンとプロポリスを8週間繰り返し投与した場合も行動試験の成績が改善されることを示した後、海馬CA1領域における長期増強を評価しました。長期増強とは、短期間のうちにシナプス前細胞に活動電位が繰り返し生じると、それ以降はシナプス前細胞に起こる単発の活動電位でシナプス後細胞が大きく反応するようになることで、記憶学習に重要です。実験の結果、メマンチンとプロポリスを8週間繰り返し投与することでアルツハイマー病モデルマウスの長期増強が回復しました。また、海馬CA1におけるタンパク質を調べると、CaMKIIαやCaMKIV、そしてその下流の基質のリン酸化が上昇していることがわかりました。更に、神経細胞での結果と同様に、アルツハイマー病モデルマウスの海馬CA1においてもメマンチンとプロポリスの投与によってATP量が上昇しました。

 最後に筆者らは、メマンチンの作用先であるKir6.2を欠損させたマウスにおいて、行動試験と海馬CA1内のATP量の測定を行いました。その結果、今までにメマンチンとプロポリスで見られていた認知機能の改善効果や、ATP量の上昇は見られませんでした。

 以上の結果から、プロポリスはメマンチンと共にKir6.2に作用し、細胞内Ca2+やATP量を上げて、CaMKIIとCamKIVの活性を高めることでメマンチンの作用を増幅させることがわかりました。本研究ではプロポリスに含まれるどの成分が認知機能の向上に作用したかまでは明らかになっていないため、続報においてより詳細な解析結果が報告されることが期待されます。

紹介論文: Moriguchi, S. et al. Propolis Promotes Memantine-Dependent Rescue of Cognitive Deficits in APP-KI Mice. Mol Neurobiol 59, 4630–4646 (2022) Molecular Neurobiology

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