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細胞増殖のin vivo モニタリング動物の体の中では、細胞が分裂して増殖する細胞増殖が起こっています。増殖の度合や時期はそれぞれの細胞の種類や部位によって異なり、特定の細胞の増殖を観察することはそう容易いことではありません。これまで、動物の体内で目的の細胞の増殖を経時的に観察するには、複数の時点で動物の臓器を摘出し、染色して顕微鏡で観察する方法しかありませんでした。この手法では多くの実験動物を必要とし、個体差による影響も考慮できていません。そこで筆者らは、目的の細胞が体内でどの程度増殖しているのかを、同一個体で、生きたまま、継続して観察できる仕組みの開発を試みました。
筆者らは、Ki67というタンパク質のプロモーター配列(Ki67 promoter: Ki67p)に着目しました。Ki67は細胞周期中の細胞増殖期にあたるG2期とM期に発現するタンパク質で、Ki67pの下流にある遺伝子は細胞増殖期に発現します。そこで、Ki67pの下流に蛍光を発するルシフェラーゼ配列を融合することで、細胞増殖期にルシフェラーゼが発現して細胞外に分泌されるようにしました。さらに、タモキシフェン依存性のCreER-loxPシステムを組合わせることで、目的の細胞特異的にKi67p-ルシフェラーゼを発現するマウスを作出することに成功しました。
この手法によって、本論文では、増殖が速い肝臓の細胞と、増殖が遅く数も少ない膵β細胞の増殖をモニタリングしました。肝臓の細胞増殖のモニタリングでは、肝臓の部分切除後に再生が活発に行われるという報告から、切除後2週間にわたって採血を行い、血中のルシフェラーゼの活性を測定しました。その結果、切除2日後に細胞増殖がピークに達し、5日後頃には定常状態に戻ることが分かりました。
続いて、膵β細胞の増殖速度が変化することが予測されているいくつかの条件において、採血と血中のルシフェラーゼ活性の測定を行いました。最終的に、膵臓への神経刺激を活発化した条件や妊娠時、肥満初期時、幼少期における膵β細胞の増殖の様子を、経時的にモニタリングすることに成功しました。また、作出したマウスの膵島を単離して培養する実験系では、膵β細胞の増殖を促進する物質の探索に役立つ可能性を見出しています。
本論文の手法を応用できれば、実験資源を有効に活用しながら、糖尿病治療のために膵β細胞を増やす、心不全治療のために心筋細胞を増やす、筋肉量が減少した高齢者のために骨格筋細胞を増やすなど、様々な疾患において、治療薬の開発が進むことが期待されます。
紹介論文: A highly sensitive strategy for monitoring real-time proliferation of targeted cell types in vivo. Sugawara et al., Nature Communications 2023