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ハチの行動進化を遺伝子レベルから読み解く

 昆虫の中でもハチ目は、種類によって様々な段階の行動をとる動物です。行動様式は大きく分けて単独性(ハバチなど)・寄生性(コマユバチなど)・営巣性(ミツバチなど)の三つが存在し、進化的には単独性→寄生性→営巣性の順に分岐していったと考えられています。昆虫において複雑な行動を司る脳領域であるキノコ体にある、ケニヨン細胞という細胞のサブタイプが単独性→寄生性→営巣性と進化するにつれて増加することは知られていましたが、その遺伝的な基盤や行動との具体的な関係性は不明でした。

 単独性のハチの一種であるカブラハバチ(以下ハバチ)と、代表的な営巣性のハチであるセイヨウミツバチ(ミツバチ)とでケニヨン細胞の遺伝子発現を詳細に比較し、行動の進化メカニズムを探索しました。カブラハバチのキノコ体でRNA-seqを行い、ケニヨン細胞に特徴的な遺伝子群を同定しました。さらに先行研究で行われていたミツバチ脳のシングルセルRNA-seqデータを再解析し、ミツバチのケニヨン細胞をLKC、MKC、SKC、Class IIKCの4種に分類して、それぞれに特徴的な遺伝子群をハバチケニヨン細胞の遺伝子群と比較しました。その結果、ハバチケニヨン細胞の遺伝子群は、ミツバチの4種のケニヨン細胞の遺伝子群いずれとも同程度(約4割)類似していました。

 さらに、ハバチとミツバチに共通した遺伝子が行動に果たす役割を検証するため、ハバチで連合学習実験を行いました。ハバチが好むクサギ抽出液と、匂い物質である2-オクタノールを同時に提示する条件付け学習を続けて行うと、ハバチは2-オクタノールを提示しただけで口を伸ばす口吻進展反射(PER)を示すようになります。ここで、ミツバチのLKC、MKC、SKC全般に発現し、初期記憶の形成に重要なPLCeという遺伝子をハバチでノックダウンすると、学習中のPERが起こりにくくなる一方、長時間経過した後のPER率は影響を受けませんでした。反対に、ミツバチのLKCのみに発現し、長期記憶の形成に重要なCaMKIIという遺伝子をハバチでノックダウンすると、学習中のPERは影響を受けませんでしたが、長時間経過した後のPER率は低下しました。PLCeとCaMKIIの両者ともハバチのケニヨン細胞全般に発現していたことから、ハバチのケニヨン細胞は初期記憶や長期記憶の形成といった複数の機能を兼ね備えており、それがミツバチへと進化する過程で機能分離・分岐し、高度に専門化した複数種類のケニヨン細胞になっていったと考えられます。

 言語などの高度で複雑な機能を持った哺乳類の脳では、神経細胞が非常に多くの種類に分化しています。本研究で示された神経細胞の進化モデルは、哺乳類の脳の複雑化メカニズムにも適用できる可能性があります。

紹介論文: Kuwabara et al, Evolutionary dynamics of mushroom body Kenyon cell types in hymenopteran brains from multifunctional type to functionally specialized types. Science Advances, 9, 2023

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