トピックス

腸内細菌が嗜好食品の摂食行動を調節する

 私たちの消化管内にはたくさんの腸内細菌が生息しており、ヒトの大腸には約100-1000兆個の細菌が生息しています。腸内細菌は、私たちが消化できない食物の分解や免疫機能の向上などに関与しています。近年、腸内細菌が宿主の行動に影響を与えていると考えられる研究結果が数多く報告されています。例えば、肥満マウスにやせ型マウスの腸内細菌を糞便移植すると、肥満マウスの摂食量が低下します。また、腸内細菌を除去した無菌マウスに特定の細菌叢を移植すると、タンパク質・炭水化物飼料への摂食行動選択が変化します。

 本論文の筆者らは、「腸内細菌が嗜好性食品の摂食行動に与える影響」に着目しました。筆者らは、ABXマウス(腸内細菌を抗生物質で除去したマウス)は通常マウスと比較して、高スクロース含有ペレット(嗜好食品)の摂食量が増加することを見出しました。しかし、通常のエサを与えても摂食量は変化しないことから、腸内細菌は快楽的摂食(エネルギー摂取が目的ではなく、おいしいから食べる)に影響を与えている可能性が示唆されました。

 また、ABXマウスは高スクロース含有ペレットを食べると、報酬に関与する中脳辺縁系ドーパミン作動性ニューロンの活性が高くなること、高スクロース含有ペレットを得るためのオペラント行動試験へのモチベーションが上がることが明らかになりました。さらに、筆者らは高スクロース含有ペレットの摂食を抑制する腸内細菌の同定を試みました。その結果、S24-7ファミリーとLactobacillus属の細菌をABXマウスに糞便移植すると、高スクロース含有ペレットの摂食量が抑制されました

 以上の結果から、特定の細菌群が宿主の嗜好性食品への摂食行動を抑制している可能性が示唆されました。腸内細菌が宿主の摂食行動を制御するメカニズムの詳細が明らかになれば、糖尿病や過食症への新たな治療法の確立に寄与できる可能性があります。

紹介論文: Ousey, James, Joseph C. Boktor, and Sarkis K. Mazmanian. 2023. “Gut Microbiota Suppress Feeding Induced by Palatable Foods.” Current Biology: CB 33 (1): 147-157.e7.

▲TOPへ戻る