トピックス

オメガ3脂肪酸を多く含む食事は胎児脳の遺伝子発現を変化させる

 DHAやEPAに代表されるオメガ3(n-3系)多価不飽和脂肪酸 (PUFA)は、オメガ6(n-6系)脂肪酸と共にヒトの体内で合成することの出来ない必須脂肪酸です。そのため、胎児期において、母親の食事に含まれるオメガ3脂肪酸は胎児の脳の発達に重要な役割を担います。オメガ6とオメガ3の脂肪酸が約5:1となるような食事が推奨されていますが、近年西洋化した食事が普及したことにより、世界的にオメガ3脂肪酸の摂取量が大幅に減少していることが報告されています。そこで、本研究はオメガ3脂肪酸を多く含む食事が、胎児脳におけるニューロトロフィンの遺伝子発現に及ぼす影響を調べました。

 実験内容は、7週齢のメスのC57BL/6マウスにn-3脂肪酸の割合が(高い、低い、とても低い)異なる三種類の餌のうち、いずれかを妊娠二週間前から与え、その後妊娠12.5日目と18.5日目の母親マウスから胎盤と胎児の脳を摘出し、それぞれの組織からRNAを抽出して、特定の遺伝子発現量をqPCRによって測定しました。その結果、高n-3食を与えられていた母親マウスの群が内皮リパーゼとFABPpmというトランスポーターの遺伝子発現量が最も高く、より効率的にn-3脂肪酸を胎児へ輸送することを可能にしていることが示唆されました。次に筆者等は、胎児脳において高n-3脂肪食がBDNF/TrkBシグナルへ影響を及ぼしていないかどうか調べました。BDNFとは、神経細胞の生存や成長を支え、記憶力の向上に寄与しています。このBDNFシグナルに関与するBDNF、受容体のTrkB、転写因子のCREBの遺伝子発現量は、母親の餌に含まれていたn-3脂肪酸の割合に依存している傾向がありました。

 オメガ3脂肪酸を多く含む食事は、妊娠が進むにつれて胎児脳のBDNF/TrkBシグナル伝達を増強させ、脳の発達に重要な働きを担っている可能性を示唆されます。

紹介論文: Maternal diet high in Omega-3 fatty acids upregulate genes involved in neurotrophin signalling in fetal brain during pregnancy in C57BL/6 mice. Neurochemistry International, 2020.

▲TOPへ戻る