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食べ物の匂いを嗅ぐと、全身の脂質利用が促進される

 食べ物の情報を与えられると、食事前にも関わらず消化や吸収機能が向上するという「パブロフの犬」はとても有名です。この現象について、これまで様々な研究がなされてきましたが、食べ物の匂いが私たちの代謝に与える影響については明らかになっていませんでした。

 そこで、研究チームは1日絶食させたマウスにエサの匂いを嗅がせ、嗅がせていない時と比べ代謝がどう変化するか調べました。その結果、エサの匂いを嗅ぐと、脳の視床下部に存在するプロオピオメラノコルチン(POMC)神経を介して交感神経が興奮し、脂肪の分解が促進されることがわかりました。これによって、エネルギー不足が補われます。さらに、絶食させたマウスにエサの匂いを嗅がせてから、エサを食べさせた時の方が、嗅がせていない時よりも全身の脂肪燃焼効率が向上しました。この経路について、検証したところ、嗅覚刺激による視床下部のアグーチ関連ペプチド産生(AgRP)神経を介した交感神経の抑制、消化管での脂質吸収の促進、肝臓でのコレステロール分泌の増加など各組織で代謝の調節が行われることが明らかになりました。

 本研究は嗅覚が発達したマウスで行われており、ヒトでも同様の結果が得られるか不明ですが、嗅覚刺激が肥満や糖尿病治療の新たな標的となることが期待できます。

紹介論文: Food odor perception promotes systemic lipid utilization. Nature Metabolism 4, 1514-1531, 2022

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