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褐色脂肪細胞のアポトーシスに伴うイノシン放出と代謝向上

体内の脂肪組織は、白色脂肪組織と褐色脂肪組織に大別されます。白色脂肪組織は内臓脂肪や皮下脂肪にみられ、中性脂肪を蓄積する白色脂肪細胞が多くを占めています。一方、褐色脂肪組織は首の周囲に多く分布し、エネルギーを積極的に消費して熱を放出する褐色脂肪細胞から構成されます。近年、白色脂肪細胞の一部が寒冷刺激などにより、褐色脂肪細胞と似た性質をもったベージュ細胞と呼ばれる脂肪細胞に分化することが分かってきました。そのため、人為的に白色脂肪細胞をベージュ細胞に分化させるベージュ化の促進が、肥満治療の選択肢として期待されています。

ボン大学の研究チームは、寒冷刺激ではなく穏やかな温熱刺激をマウスに与えることで、褐色脂肪細胞でアポトーシスという細胞死が起こることを発見しました。アポトーシスした褐色脂肪細胞の周囲では、核酸の一種であるイノシンという物質の濃度が増加していました。このイノシンは、周囲の褐色脂肪細胞を活性化させて熱産生を促進するほか、白色脂肪細胞のベージュ化も促進することが分かりました。高脂肪食を与えて肥満化させたマウスにイノシンを投与すると、酸素消費量の増加、体重増加の抑制、白色脂肪組織および褐色脂肪組織での熱産生促進が起こりました。

細胞外のイノシンは、ENT1というタンパク質によって細胞内に取り込まれます。そこで褐色脂肪組織のENT1遺伝子を欠損させると、イノシン取り込みの減少と熱産生促進が起こりました。またENT1遺伝子を欠損したマウスは、高脂肪食投与時に体重増加が抑制され、白色脂肪組織および褐色脂肪組織での熱産生促進が起こりました。さらに、ヒトから採取した褐色脂肪細胞でも同様の結果が確認されました。ヒトゲノムのデータベースをもとにした解析から、ENT1遺伝子にIle126Thrという変異を持つヒトの存在が明らかになりました。Ile126Thr変異を持つ褐色脂肪細胞ではイノシン取り込みが低下しており、またIle126Thr変異を持つヒトはBMIが低下する傾向にありました。

以上の結果から、褐色脂肪細胞のアポトーシスに伴って放出されるイノシンがエネルギー消費を促進し、体重低下をもたらすことが明らかとなりました。従来は寒冷刺激により放出されるノルアドレナリンと、その受容体であるアドレナリン受容体が治療標的候補でしたが、心機能への副作用が問題とされていました。今回発見されたイノシンおよびENT1を標的とした、新たな肥満治療が期待されます

紹介論文: Niemann et al., Apoptotic brown adipocytes enhance energy expenditure via extracellular inosine. Nature, 609, 361-8, 2022

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