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キラーT細胞の脳への侵入が、視路神経膠腫の進行に寄与一般的な癌は、癌微小環境を形成し、内部には様々な細胞が含まれています。癌の成長、維持、浸潤には間質細胞や線維芽細胞が関与する一方で、神経系癌の微小環境に線維芽細胞は含まれていません。そこで著者らは、神経膠腫という神経系癌について、微小環境内にどのような細胞が含まれ、また細胞の動態を明らかにするために、T細胞、ミクログリアなどの免疫細胞に加えて神経細胞に着目して研究を行いました。
本論文では、視路神経膠腫について焦点を当てて癌細胞内でのシグナル伝達経路について議論されています。NF1遺伝子に変異のある神経細胞内では、RASのシグナル伝達を阻害し、MDK(ミッドカイン)を産生します。MDKは、キラーT細胞が腫瘍に取り込まれる際に働きます。血管内を循環しているキラーT細胞は、MDKによるアドレスコードをもとにVLA4というインテグリンを介して腫瘍内に取り込まます。また、MDKがキラーT細胞の受容体に結合すると、Lrp1、カルシニューリン、NFAT1を介したシグナル伝達が引き起こされることによってCcl4というケモカインが放出されます。このケモカインは、ミクログリアのCCR5という受容体に結合し、ミクログリア内でのシグナル伝達を引き起こします。NFκBが活性化されると、Ccl5は放出され、癌細胞のCD44に結合します。癌細胞内では、CD44を介してAKT、GSK3、CREB分子による細胞生存シグナル伝達が引き起こされ、結果としてアポトーシスの阻害を引き起こします。キラーT細胞は細胞を殺傷することで知られていますが、視神経膠腫では、逆に癌細胞の成長にも寄与してしまうという点が明らかにされました。
本論文を通して今まで未解明だったT細胞とミクログリアの関連性が明らかになったことで、この相互作用から変化する細胞の生理状態や機能についてさらに研究が発展していくことが期待されます。また、神経膠腫の新たな治療法としてT細胞の働きを制御することも新たな視点として考えられるようになりました。
紹介論文: Guo et al., Midkine activation of CD8+ T cells establishes a neuron–immune–cancer axis responsible for low-grade glioma growth. Nature Communications, 11, 2177, 2020