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段階的なシナプス可塑性が固定化の初期段階を制御する学習後にスパインが増大し神経伝達物質のやりとりが起こりやすくなる長期増強(LTP)が誘導されるとその細胞に記憶が蓄えられます。記憶は海馬に短期的に保存されたあとに皮質で長期的に保存されるとされています。しかし、いつどこで長期増強が起こっているのか詳細な時間軸は明らかになっていませんでした。そこで筆者らは光増感性蛍光タンパク質であるSuper Novaを利用してLTPを選択的に消去する実験を行いました。Super Novaは特定の波長の光が照射されると融合しているタンパク質を不活性化することができるタンパク質です。筆者らは脳の特定の領域にSuper Novaを発現させ、特定の時間に光を照射することで、LTPを自由に消去できる実験系を開発しました。
筆者らは、海馬のスライス培養を用いて光照射によりLTPが消去できているかを確認しました。Super Novaを発現している細胞にLTPを誘導し、スパインの増大を確認してから光を照射すると、スパインの体積が減少しました。次にマウスに暗室内で電気ショックを与える回避学習試験をさせることで、生体の海馬でもLTPを消去できるか確認しました。電気ショックから20分以内に海馬に光照射した場合にLTPが消去されることが明らかになりました。
さらに、海馬で数時間にわたって継続するLTPの影響を調べるために、電気ショックから2時間後を起点として4時間〜8時間の光照射を行いました。その結果、海馬では電気ショックから2時間経過後に、8時間にわたって睡眠中にLTPが誘導されていることがわかりました。しかし海馬でのLTP誘導は電気ショックから1日以内に限られており、電気ショック翌日の睡眠中に光照射をしてもLTPは消去されませんでした。
最後に筆者らはマウスの前帯状皮質にSuper Novaを発現させ、皮質においていつLTPが誘導されているか調べました。その結果、海馬でLTPが誘導される電気ショック直後や電気ショック1日以内に、皮質ではLTPの誘導が起こらないことが明らかになりました。逆に、海馬でLTPが誘導されない電気ショック翌日の睡眠中に、皮質においてLTPが誘導されることが明らかになりました。これは海馬と皮質ではLTPが誘導される時間が異なり、海馬から皮質へ記憶が転送されることを示しています。
本研究は光増感性タンパク質を用いてLTPを狙った場所、狙った時間に消去することでLTPが起こる部位と時間枠を詳細に明らかにしました。この技術がLTP異常に関わる疾患の研究や治療法開発に応用されることが期待されています。
紹介論文: Goto et al., Stepwise synaptic plasticity events drive early phase of memory consolidation. Science, 374, 857-68, 2021