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アストロサイトのシナプス形成促進作用と注意欠陥・多動性障害との関係

多動症や注意欠陥障害は一般的な行動障害として知られていますが、その分子メカニズムは未だ解明されていません。そこで、本論文の筆者等は大脳基底核の主要な構成要素である線条体のアストロサイトに着目しました。アストロサイトは、哺乳類の脳細胞の約2~4割を占め、神経細胞(ニューロン)と密接にコミュニケーションをとっているグリア細胞です。

まず始めに、線条体の中型有棘ニューロン(MSN)の細胞体部分を脱分極させ、MSNを活性化させた条件下で近接するアストロサイトにどのような反応が起こるのか調べました。その結果、近接するアストロサイトにおいて細胞内Ca2+濃度上昇が生じ、アストロサイトが活性化している反応が観察されました。その後、アストロサイトの受容体やイオンチャネルの阻害剤を用いた薬理学的実験の結果より、MSNから分泌されたGABAがアストロサイト上のGABAB受容体に作用し、細胞内Ca2+シグナルを引き起こしている可能性が示唆されました。次に、このMSNの発火に伴うアストロサイトの活性化がどのようなマウスの行動に影響をもたらすのかを調べたところ、線条体アストロサイトの活性化を人為的に促進したマウスのグループにおいて、多動症や注意欠陥障害といったヒトADHDを想起させる行動表現型が認められました。ADHD様行動を示したマウスでは、活性化されたアストロサイトからシナプス産生因子TSP-1が分泌され、線条体における大脳皮質–線条体経路の興奮性シナプス過剰産生を引き起こしていました。

これらのことから、アストロサイトCa2+シグナルの活性化がADHD様行動を引き起こすメカニズムの一端が明らかになりました。アストロサイトによるニューロンの活性調節機構は、今後ADHD様行動をはじめとする他の精神疾患の新たな治療法に応用されることが展望されます。

紹介論文: Nagai et al., Hyperactivity with Disrupted Attention by Activation of an Astrocyte Synaptogenic Cue. Cell 177:128-92 (2019)

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