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授乳期間と子供の肥満度

母乳には代謝を制御する可能性のある因子が豊富に含まれており、母乳育児が小児期・成人期の肥満に対して保護効果を持つことが示唆されてきました。しかし、実際に母乳が小児に対してどのような分子メカニズムで影響するかは不明でした。そこで3週間授乳されたラット(通常通りの授乳期間)と4週間授乳されたラット(長めの授乳期間)を用意し、離乳後通常食あるいは高脂肪食を摂取させて比較を行いました。

体重や脂肪量を比較すると、通常食を摂取させた場合はどちらの授乳期間でも特に差は見られませんでした。一方、高脂肪食を摂取させた場合は授乳期間が長いラットの方が通常通りの授乳期間のラットと比べて成人になるまで継続して体重や脂肪量の増加が小さいということが分かりました。

次に、体温を調べたところ、授乳期間の長いラットでは肩甲骨間の温度が上昇していました。肩甲骨間には褐色脂肪細胞という熱産生に関わる細胞が多く存在しているため、これらの細胞が活性化していることが予想されました。そこで褐色脂肪細胞に発現しているタンパク質を調べたところ、FGF21などの熱発生の指標になるタンパク質の発現量が増えていることが分かりました。肝臓でも同様な解析を行ったところ、高脂肪食を摂取したラットのうち授乳期間が長かった群では脂肪肝が改善されており、肝臓や血漿中でのFGF21発現も増えていました。

そこで肝臓のFGF21遺伝子をノックダウンしたところ、授乳延長による代謝の向上が失われました。つまり、授乳延長により小児の体内で増加したFGF21が肥満抑制に重要な役割を果たしている可能性が示唆されました。

また、FGF21が脳の褐色脂肪細胞の熱産生を制御するニューロン(視床下部外側野に存在するGABA作動性ドーパミンニューロン)に直接作用することで、熱産生を向上させていることも示唆されました。

以上のことから、授乳延長により増えたFGF21が中枢神経に作用して褐色脂肪細胞を活性化させ、代謝向上をもたらすことが示唆されました。しかし母乳のどの成分がその効果をもたらしているのかなどは不明で、またヒトでも同様なメカニズムが存在するのか、今後さらなる解析が勧められることが期待されます。

紹介論文: Pena-Leon et al., Prolonged breastfeeding protects from obesity by hypothalamic action of hepatic FGF21. Nature Metabolism, 4, 901–917 (2022)

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