神経・脳
外側扁桃体(LA)は、危険な刺激に関連する感覚情報を強化し、恐怖記憶として定着させる脳領域です。その過程で、ニューロンの10〜30%が恐怖記憶の担い手(エングラムニューロン)として動員されることが知られていました。しかし、LA内の局所的なニューロンネットワークがこの情報をどのように処理し、記憶の保存に関わるのかは、ほとんど分かっていませんでした。
本研究では、恐怖条件付けを施したラットのLAを対象に、摘出した脳での12本の細い電極による電気的記録と、生きたラットに32本の電極を埋め込んだ記録を行いました。さらに、ニューロンが活動したときだけ光る蛍光マーカーや、光で特定のニューロンを操作できる光遺伝学的手法を組み合わせました。
その結果、LA内の主要なニューロン同士は、結合の頻度は低いものの、互いにつながっていることが明らかになりました。この結合の割合は、記憶に関わる海馬のCA3(0.9%)と、感覚を処理する皮質(10%以上)の中間に位置していました。
また、恐怖条件付けによって、学習時に動員されたエングラムニューロン同士のシナプス(ニューロン間の接合部)の結合が選択的に強化されました。エングラムニューロン間の結合率は7.2%に上昇し、シナプスを介した電気信号の強さも有意に増大しました。さらに、エングラムニューロン間では、人工的に刺激を与えてもそれ以上は強化されませんでしたが、エングラムでないニューロン間では引き続き強化が可能でした。これは、エングラムニューロン間のシナプスが恐怖条件付けによってすでに強化され、上限に達していることを示しています。生きたラットを用いた実験では、恐怖条件付けの前には、後にエングラムとなるニューロンとそうでないニューロンとの間に機能的なつながりの差はありませんでした。条件付けの後にのみ、エングラムニューロン間で機能的なつながりの明確な増大が観察されました。
これらの知見は、LAが従来考えられてきた単なる中継地点ではなく、学習を通じてニューロン間のシナプス結合を能動的に強め、記憶を積極的に形成する「中核的な処理拠点」であることを示唆しています。恐怖記憶の形成には、もともと興奮しやすいニューロンが動員されることや、外部からの入力が強化されることに加えて、局所ネットワーク内のニューロン同士が強固に結びつくことも関わっています。少数の錐体ニューロンが、互いに活性化し合えるネットワーク構造とシナプスの強化を通じて、多数の記憶を貯蔵できる可能性も示されました。