Topics No.90

腸管ニューロンが産生する神経ペプチドが腸炎で損傷した粘膜を修復

免疫・腸管神経

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腸管ニューロンが産生する神経ペプチドが腸炎で損傷した粘膜を修復

生体内の情報伝達を担う神経系と生体防御の要である免疫系は、生命の維持に不可欠なシステムです。近年、両者が相互に機能を調節しあう機構が複数報告され、神経免疫回路と呼ばれ注目を集めています。

神経免疫回路が担う代表的な役割として、炎症の促進と組織の保護が挙げられます。腸炎や皮膚炎などの炎症は免疫応答の代表例ですが、往々にして組織を傷害します。一方の組織保護は読んで字のごとく損傷した生体を修復する機構であり、両者は対照的な生命現象と言えます。一見して相反するそれらを神経免疫回路が調節する仕組みには謎が多く、特に末梢における分子メカニズムは不明でした。

今回紹介する研究は、免疫系に作用する代表的な神経ペプチドであるCGRP(カルシトニン関連ペプチド)ファミリーに注目し、腸炎が起こった際の組織修復への寄与の詳細を調べたものです。特に、CGRPファミリーの中でも機能が未解明であったアドレノメデュリン2(ADM2)が、腸管粘膜の修復を促進する可能性を詳細に検討しています。

まず、腸管粘膜に存在し自然免疫を担う代表的な免疫細胞であるILC2細胞をCGRPで刺激すると、様々な組織で損傷修復に働くことが知られているアンフィレグリン(AREG)という因子の産生が促進されると同時に、ADM2受容体の発現が上昇しました。これより、CGRP刺激されたILC2がAREG産生を介して組織保護に働く可能性が示唆されました。

次に、マウスの腸組織サンプルを蛍光免疫染色して観察すると、ADM2は腸管ニューロンと共局在していることが分かりました。ADM2受容体を欠損するノックアウトマウスを作製し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の投与により腸炎を誘導すると、野生型マウスに比べて体重減少や大腸の短縮といった症状が増悪しました。このことから、腸管ニューロンが産生するADMが、腸炎からの回復に寄与する可能性が示されました。

続いて、野生型マウスにADM2のリコンビナントタンパク質(rADM2)を投与すると、DSSで腸炎を誘導した際の諸症状が緩和されました。一方、ILC2細胞特異的にAREGを欠損したノックアウトマウスでは、rADM2の治療効果が見られず、重篤な腸炎症状が認められました。従って、ADM2は腸炎の治療標的になり得るとともに、その効果はILC2によるAREG産生を介したものである可能性が強く示唆されました。

更に筆者らは、ヒト炎症性腸疾患患者の腸組織サンプルを解析し、ADM2による組織修復経路に関連する遺伝子の発現を調べました。すると潰瘍性大腸炎患者でADM2とADM2受容体、クローン病患者でADM2受容体の発現低下が認められ、マウスで見出された遺伝子の発現は、ヒトの腸炎患者でも実際に変動していることが分かりました。

CGRPファミリーは炎症の促進に働く効果が多く知られてきましたが、本研究はADM2に顕著な組織保護作用を認めました。炎症性のILC2もある中で組織保護性のILC2はどの程度優位になり得るのかなど検討課題はあるものの、傷害された粘膜を修復する神経ペプチドを作用機序と一体で見出し、腸炎の治療法開発に新たな切り口を提供した画期的な研究と考えられます。

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