代謝・細胞
ミトコンドリアで合成されるホスホエノールピルビン酸(PEP)は、ATPよりも高エネルギーのリン酸結合を持ち、多様な生物学的機能を有しています。しかし、PEPがどのようにミトコンドリアから細胞質へ輸送されるのかは、これまで明らかになっていませんでした。
単離ミトコンドリアにおける13C3標識ピルビン酸トレーシング実験等により、脂肪細胞においてはTCA回路を介さず、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PCX)を介したバイパス経路を利用して、ピルビン酸からオキサロ酢酸(OAA)に変換されていることが示されました。脂肪細胞では、2種類のPEPカルボキシキナーゼ(C-PEPCK:PCK1、およびM-PEPCK:PCK2)のうちPCK2が高発現しており、PKC2を介してOAAからPEPが合成されていることが分かりました。次に、Pck2欠損脂肪細胞における1-14Cピルビン酸トレーサー実験を行いました。その結果、ミトコンドリア内で合成されたPEPが細胞質へ輸送され、グリセロ脂質合成に利用されることが示されました。さらに、この輸送には、ミトコンドリア内膜に局在するSLC25A35が関与し、PEPの排出とグリセロール新生を制御していることを突き止めました。また、プロテオリポソームアッセイを用いて、PEP輸送がpH勾配依存的に起こることが示され、ミトコンドリア膜電位が高い場合に輸送が促進されることが示唆されました。表現型解析では、脂肪組織特異的にSLC25A35を欠損したマウスではグリセロール新生が抑制され、高脂肪食誘導肥満モデルにおいて肝臓特異的にSLC25A35を欠損させると、脂肪肝病態が軽減されることも示されました。以上の結果より、ミトコンドリアはSLC25A35を介してPEPを供給することで、グリセロ脂質合成を促進することが明らかになりました。
グリセロール新生はトリグリセリド貯蔵を促し、細胞を脂質毒性から保護する役割もある一方で、現代の飽食時代においては過剰な脂質蓄積を引き起こし、肥満症や脂肪肝を誘導してしまいます。したがって、これらの疾病の新たな治療標的候補として、SLC25A35が有用であると考えられます。