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どちらが先か? ― 自閉症と腸内細菌叢との関係近年、腸と脳の機能連関(腸脳相関)への関心が高まり、腸内細菌叢が自閉スペクトラム症(ASD)の発症や症状に関与しているのではないかという仮説が注目されています。多くの先行研究では、ASD児と定型発達児の腸内細菌叢に違いがあることが報告され、「腸内細菌の乱れがASDの原因の一部である」、あるいは「特定の菌がASD診断の指標になる」といった期待が持たれていました。 これに対し、クイーンズランド大学のJacob Grattenらの研究チームは、そのような既存の研究には、重要な視点が欠けているといいます。具体的には、「ASD児の腸内細菌叢を解析する際に、年齢や性別、食事の内容が腸内細菌叢におよぼす影響を十分に考慮しきれていないのではないか」、「細菌についてももっと詳細に解析すべきではないか」と指摘しています。 そこでGrattenらは、公的機関や自治体によって蓄積された、ASD児や青少年の食事に関する膨大なデータを活用し、大規模かつ詳細な比較を行いました。この研究のポイントは、単にASD児と定型発達児とを比較するのではなく、「ASDと診断されていないASD児のきょうだい」のデータを含めて、解析を行ったことです。これにより、同じ家庭環境や遺伝的背景を持つ者同士を比較でき、生活環境によるノイズを排除した精度の高い分析が可能になりました。 ASD児の腸内細菌の特徴を、ショットガン・メタゲノム解析という最新の手法により調査した結果、意外な事実が判明しました。ASDそのものと腸内細菌叢との間に、”直接的な”強い関連は見つからなかったのです。 過去にASDと関連があるとされていた多くの細菌も、今回の厳密な調査では、ほとんどASDとは関連していませんでした。 では、細菌叢の違いは何によって生じていたのでしょうか?さらに解析を進めると、腸内細菌叢にもっとも影響をおよぼしていたのは、食事の内容でした。そして、ASD児は、ASD症状のひとつである「こだわり」によって、食事の内容が偏りがちなことも分かりました。Grattenらはこれらの結果から、ASD児に特徴的な腸内細菌は、「ASDであること」ではなく、「ASDによって食事内容が偏っていること」によってつくられていると、結論づけています。臨床現場では、「腸内細菌で治す」ことよりも、偏食による栄養不足を改善するための栄養指導や食事サポート重点を置くべきなのかもしれません。
紹介論文: Autism-related dietary preferences mediate autism-gut microbiome associations. Cell. 2021;184(24):5916-5931