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絶食でホルモン療法が効きやすくなる?乳がん治療の新しい仕組み

ホルモン受容体陽性乳がんは乳がんのサブタイプの一つであり、ホルモン療法が標準的な治療として広く行われています。これまでの研究により、ホルモン療法に周期的絶食を併用すると抗腫瘍効果が増強されることが知られていましたが、その効果がいかなる分子メカニズムを介して生じるのかは不明でした。そこで、乳がん腫瘍を移植したモデルマウスに対し、ホルモン療法薬であるタモキシフェンと周期的絶食を併用し、腫瘍増殖、ゲノム上の結合動態、ならびに遺伝子発現への影響を解析しました。その結果、絶食とタモキシフェンを併用した群では、タモキシフェン単独群と比べて腫瘍増殖が有意に抑制されました。このとき、ヒストンアセチル化を中心とするエピジェネティックな変化を伴い、がん細胞ゲノム上でグルココルチコイド受容体およびプロゲステロン受容体の結合が著しく増加していることが示されました。次に作用機序を検討したところ、絶食により活性化したグルココルチコイド受容体は、腫瘍増殖を抑制する転写因子ZBTB16の発現を誘導し、同時に細胞周期・細胞分裂に関与する遺伝子群の発現を抑制していました。さらに、この増強効果はグルココルチコイド受容体の活性化に依存しており、同受容体を欠損させたがん細胞では、絶食による治療効果の増強が消失しました。加えて、絶食という身体的負担の大きい介入に代わり得る治療法を探索するため、この効果を薬物で再現できるかを検討しました。すると、グルココルチコイド受容体作動薬であるデキサメタゾンをタモキシフェンと併用投与した場合、絶食時と同等の抗腫瘍効果が得られました。さらに、デキサメタゾンは強力な免疫抑制作用を有する薬剤であるにもかかわらず、本検討の条件下では顕著な副作用は認められず、治療中止後の再発も抑制されました。以上より、周期的絶食は全身のグルココルチコイド濃度を上昇させ、がん細胞内のグルココルチコイド受容体を活性化することで、エピジェネティックな変化を介してホルモン療法の抗腫瘍効果を増強することが明らかになりました。特に、絶食を実施せずともステロイド薬の投与により同等の効果を代替できる可能性が示唆されました。

紹介論文: Fasting boosts breast cancer therapy efficacy via glucocorticoid activation. Nature. 2026 Jan;649(8098):1013-1021. doi: 10.1038/s41586-025-09869-0. Epub 2025 Dec 10

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