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腸から脳へつながる炎症の連鎖を解く炎症性腸疾患(IBD)は腸に慢性的な炎症を引き起こす病気で、腹痛や下痢といった症状に加えて、不安などの情動の問題を伴うことが知られています。しかし、腸の炎症がどのように脳の異常につながるのかは十分に分かっていません。 そこで研究チームは、この腸‐脳のつながりを仲介する物質として「サブスタンスP(SP)」に注目しました。SPは神経の働きや炎症を調整する物質ですが、IBDによる腸内細菌の乱れとどのように関わるかは不明でした。そこで、大腸炎を起こしたマウスにSPを投与し、腸の炎症、脳の炎症、不安行動への影響を調べました。 その結果、SPを投与したマウスでは、体重減少や炎症の重症度が抑えられ、腸の粘膜の傷つきも軽減しました。また、腸のバリア機能を支える仕組みが保たれ、腸が傷んだときに起こる「腸の漏れ(腸管透過性亢進)」が改善されました。 次に行動を調べると、大腸炎を起こしたマウスでは強い不安行動が現れましたが、SPの投与でこれらの症状は大きく改善しました。脳の海馬では炎症が起こり、免疫細胞であるミクログリアの過剰な活性化が見られましたが、SPはこの異常を抑え、炎症を促す物質の増加も防いでいました。これは、SPがミクログリアで働く炎症シグナル(NF-κB)を抑えるためと考えられました。 さらにSPの効果に腸内細菌が関わるかを調べたところ、SP投与によって乱れた腸内細菌の構成が変化し、特に腸内で作られる「イノシトール」という代謝物が増えることが分かりました。このイノシトールはSPの抗不安作用や脳の炎症を抑える働きに必須であり、イノシトールの生成を阻害するとSPの効果は消えてしまいました。 以上の結果から、SPは腸の炎症だけでなく、腸内細菌とその代謝物を介して脳の炎症や不安行動を和らげることが明らかになりました。特にイノシトールが、腸内細菌と脳をつなぐ重要な鍵であることが示されました。
紹介論文: Neuropeptide SP protects against colitis and linked anxiety-like behavior through the putative roles of gut microbiota and metabolite inositol. Nature Communications 2026