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経験は遺伝するか?これまで、体細胞に起きた環境による変化は生殖細胞に伝わることはなく、すなわち各個体がした経験の情報は子孫や別の個体に伝わることはないと考えられてきました。これをヴァイスマンバリアと呼びます。
しかし、近年ストレスに対する応答などは世代を超えて伝わるのではないかということが分かってきました。ここで一例としてあげられるのが線虫の緑膿菌に対する回避行動の記憶の伝達です。
緑膿菌に晒された線虫は最初は病原体に引き寄せられる性質を示しますが、一度学習した後はそれらを避けるようになります。病原体に曝露されたままでは線虫は死んでしまうからです。そしてこの回避の学習は4世代後の子孫まで受け継がれるということが分かっています。
紹介論文の筆者たちは、この記憶の伝達に、レトロトランスポゾンにコードされるCer1という遺伝子が関わっていることを明らかにしました。線虫にとりこまれた病原菌由来のスモールRNAが生殖細胞にとりこまれ、その情報がニューロンに伝達されるまでの過程でこのCer1は働きます。Cer1ののったウイルス様粒子(VLPs)が放出されることにより感覚ニューロンの遺伝子発現が変化し、他の個体へ記憶が伝わるのです。
Cer1がなくなってしまうと、線虫は回避行動を学習することもできなければ、その記憶を子孫に伝えることもできなくなってしまいます。
また、線虫はウイルス様粒子を培地中に放出することによって周りの仲間に病原菌に対する記憶を伝えることができます。この働きによって線虫たちは周りの仲間や子孫を危険から遠ざけ、適応度をあげることができるのです。
紹介論文: The role of the Cer1 transposon in horizontal transfer of transgenerational memory. Moore et al., Cell 184, 4697-4712, 2021
