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細胞外小胞による前転移ニッチの形成

 乳がんは早期発見および適切な治療を行うことで、完治できる可能性が高いがんです。しかし、他の臓器に転移していた場合、完治は困難になります。特に肝臓への転移では他の部位への転移と比較して、致死性が高いことが知られています。がんの転移では、原発巣のがん細胞が転移巣に前転移ニッチと呼ばれるがん細胞の生存に有利な微小環境を形成することが知られています。また、この前転移ニッチの形成において、原発巣のがん細胞から分泌される細胞外小胞(EV)が関与することが報告されています。しかし、がん細胞由来のEVが前転移ニッチの形成に寄与するメカニズムは不明でした。

Junyoung Kim博士らの研究グループは、類洞と呼ばれる肝臓の血管部位を再現した三次元肝臓チップを開発しました。そして、肝臓チップ上で培養した肝臓の類洞内皮細胞(LSEC)に乳がん細胞由来のEVを灌流することで、LSECが間葉系細胞へ転換すること、およびLSEC間の密着結合が弱まることを発見しました。また、EV灌流後に単離した乳がん細胞を肝臓チップに流した結果、LSECに接着する乳がん細胞の割合がEVを灌流しなかった場合に比べて増加することが分かりました。さらに、この乳がん細胞の接着増加にはLSEC上のフィブロネクチンの増加が寄与しており、このフィブロネクチンの増加はEVに含まれるTGFβ1がLSECを活性化するために生じることを明らかにしました。

以上より、乳がんにおける肝臓への転移では、乳がん細胞由来のEVに含まれるTGFβ1がLSECを活性化することでフィブロネクチンの分泌量を増やし、血管内を流れる乳がん細胞がLSEC上に接着しやすくなることが示されました。また、LSECの密着結合の弱化や間葉系細胞への転換により、接着した乳がん細胞が浸潤しやすくなることも明らかになりました。今後、前転移ニッチ形成のより詳細なメカニズムの解明が進めば、がんの転移を防ぐ新たな治療法の開発につながるかもしれません。

紹介論文: Three-Dimensional Human Liver-Chip Emulating Premetastatic Niche Formation by Breast Cancer-Derived Extracellular Vesicles. Kim et al., ACS NANO 14, 14971-14988, 2020



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