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毛包幹細胞の起源を解明

 皮膚の表面で体毛が生える器官を毛包と言います。毛包は表皮がくぼんだ漏斗、くぼみの周辺で細胞が盛り上がった隆起(バルジ)、くぼみの奥から体毛が生える毛母という三つの部分に大きく分かれています。バルジに分布する毛包幹細胞が増殖して毛母を形成し、やがて毛母が委縮するというサイクルを周期的に繰り返すことで体毛の生え替わりが起きていますが、発生過程で表皮からどのようにして毛包幹細胞が分化するかは詳細に分かっていませんでした。先行研究において、単純な皮膚構造が形成されるプラコード期に、皮膚の表層にある基底上層細胞が垂直に細胞分裂し、皮膚の深くへと増殖して毛包幹細胞となる、という説が提唱されていましたが、基底上層細胞のマーカーとされるSOX9は他の細胞でも広く見られる遺伝子であるため、厳密な細胞の特定は困難でした。

 理化学研究所生命機能科学研究センターの細胞外環境研究チームらは、皮膚の細胞核で蛍光タンパク質を発現するマウス胎児の皮膚をシャーレ内で培養し、核の蛍光をトラッキングすることで、毛包形成過程の細胞の動きを網羅的に解析しました。その結果、将来毛包ができる領域を中心に、プラコード期の表皮で細胞が同心円状に区画化されており、同心円の中心は毛母、その外側はバルジ、さらに外側は漏斗に分化することが分かりました。一方、従来バルジの毛包幹細胞に分化すると考えられていた基底上層細胞は、バルジよりも深くに位置する毛根鞘に相当する領域に分化しており、実際に毛包幹細胞に分化していたのは基底上層細胞よりも下に位置する基底細胞であることが明らかになりました。

 さらに、トラッキングから推測された細胞の区画が遺伝子レベルでの違いを反映しているか確かめるため、毛包の細胞をばらばらに単離し、細胞1個単位で転写されたメッセンジャーRNAを定量するシングルセルRNA-seqを行いました。その結果、毛包の細胞は転写産物の違いから異なるクラスターに分類でき、プラコード期においてトラッキング結果と一致する同心円状の配置をとっていることが分かりました。さらに、異なる領域が発生の進行に伴い、毛包の漏斗、バルジ、毛母に相当する領域へと分化することもわかりました。

 以上の結果から、将来毛包に分化する細胞はプラコード期において表皮に同心円状に配列されており、それぞれの領域が皮膚の下に向かって円筒状に広がり毛包を形成する、という「テレスコープモデル」が提唱されました。このテレスコープモデルは、昆虫の足の形成で見られるモデルにも似ていることから、哺乳類以外に限らず様々な生物の器官発生で存在するものと考えられます。

紹介論文: STracing the origin of hair follicle stem cells. Morita et al., Nature 594, 547-552, 2021



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