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モグラのゲノム解析から分かった生殖器系の仕組み

 モグラは見た目の性差が小さい動物で、メスもオスと同等の筋肉量や攻撃性を備えていることが知られています。メスの生殖器は、卵子を作る卵巣に加えて精巣に似た構造を持った部位も持ち卵精巣(ovotestis)と呼ばれています。さらに繁殖期以外では卵巣がしぼみ、膣が消失し、陰核がオスのペニスのように肥大する男性化を起こします。このきわめて特殊な生殖器系はどのような仕組みで成り立っているのか、これまで全く未解明でした。

 ドイツのマックスプランク研究所らの研究チームは、スペインに生息するイベリアモグラのゲノムを解読し、また最新の技術を用いて染色体の構造を詳細に解析しました。その結果、モグラのゲノムでは男性ホルモンを合成する酵素であるCYP17A1の遺伝子が3重に重複していることが分かりました。興味深いことに、実際にCYP17A1のmRNAが転写されているのは重複した3つ中1つの配列だけでしたが、遺伝子配列からのmRNA転写を制御するエンハンサーと呼ばれるDNA配列も重複しており、その作用が強化されたために、CYP17A1の発現量が増加していました。この重複したエンハンサーをマウスのゲノムに組み込むと、モグラと同様にCYP17A1の発現増加や、男性ホルモン濃度の上昇、筋力の増強が起こりました。さらに、卵管形成を抑制するFGF9という遺伝子の上流でDNA配列が逆転(逆位)しており、これによって染色体の構造が変化し、FGF9の発現が増加していることもわかりました。マウスでFGF9を過剰発現させると、卵巣がモグラのようにオス化しました。

以上から、モグラのゲノムでは性決定にかかわる遺伝子そのものではなく、その制御領域で変化が生じることで、特殊な生殖器系が発達するようになったと考えられます。その進化的な意義としては、メスでも筋力が増加し、地中を掘り進める能力が発達するメリットがあると考えられています。近年、遺伝子の制御領域の解析技術は急速に進歩しており、これまで注目されていなかった様々なDNA配列が持つ、予想外の機能が明らかになるかもしれません。

紹介論文:The mole genome reveals regulatory rearrangements associated with adaptive intersexuality.
Real et al., Science 370, 206-214, 2020



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