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細胞遊走とグルコース代謝

 細胞内に取り込まれたグルコースは、細胞質やミトコンドリアで代謝を受け、エネルギーとして利用されています。このグルコース代謝の形態は、細胞ががん化するときや、脊椎動物の胚発生ステージが進むことによって変化します。興味深いことに、がん細胞も、発生途中にのみ存在する神経堤細胞も、遊走(別の場所に移動)するという性質を持っています。がん研究のためにも、神経堤細胞の中では何が起きているのか、神経堤細胞はなぜ遊走するのかが調べられてきました。

 筆者らは、遊走する神経堤細胞で何が起こっているのかを知るために、遊走しない細胞との違いを解析しました。結果として、神経堤細胞がワールブルグ効果を示すことが分かりました。ワールブルグ効果は、がん細胞でよくみられるグルコース代謝形態の変化であり、解糖系が亢進した状態を示します。さらに、解糖系の亢進は、YAPおよびTEADという転写因子に働きかけ、遺伝子発現を変化させることで、神経堤細胞の遊走に関わっていることが分かりました。

 つまり、グルコース代謝形態の変化は、単にエネルギーを補充するだけでなく、遺伝子発現を介して細胞の性質を変える可能性を持っていました。神経堤細胞では、解糖系を阻害すると、遊走に関わる遺伝子の発現レベルが変化し、遊走しなくなります。神経堤細胞が遊走しないということは、その先、神経などに分化できず、発生が止まることを示します。この点で筆者らは、グルコース代謝の形態を変えられた細胞だけが、発生の先の段階に進めるのではないかと考察しています。がん細胞に言い換えると、がん細胞になったから解糖系が亢進しているのではなく、解糖系が亢進しているからがん細胞になったのではないか、となります。この逆転の発想から、新しいがん治療法が見つかることを期待しています。

紹介論文:Metabolic Reprogramming Promotes Neural Crest Migration via Yap/Tead Signaling, Bhattacharya et al., Dev Cell. 2020 Apr 20;53(2):199-211.

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