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最先端の顕微鏡技術で見えた神経活動

 「脳が活動している」、この時脳内では、非常に細かく張り巡らされている神経細胞同士で、情報伝達物質(神経伝達物質)のやりとりが行われています。アミノ酸やペプチドホルモンといった神経伝達物質が、いつ、どの場所で、どのくらいやりとりされたのかで、脳の活動が厳密に制御されています。

 この、神経伝達物質のやりとりは神経細胞と神経細胞の隙間のシナプスとよばれる構造で行われており、その大きさは1 µmほどととても小さく、各神経細胞には1万個以上ものシナプスが存在します。シナプスでは、シナプス小胞に含有された神経伝達物質が待機しており、刺激が到達するとシナプス小胞がシナプス膜に融合し、放出され、対岸の神経細胞に受け渡されます。今回、Watanabe博士らの研究グループは、この超微細かつ高速な現象を、できるだけ詳細に捉えることに成功し、シナプス小胞が制御される新たなメカニズムに迫りました。

 この研究ではZap-and-freeze法と名付けたシステムを開発しました。これは、シナプスを電気的に刺激した後ms単位で組織を高圧急冷し、高倍率で組織を観察することができる電子顕微鏡で観察するというものです。この方法で、シナプス小胞が集まり、アクティブゾーンとよばれる放出がおこるエリアにドッキングし、刺激到達後に膜融合する過程をはっきりと、時間を追って捉えることに成功しました。

 さらに、彼らの観察結果はこれまで神経科学者の間で議論が続いていた、いくつかの問いに答えてくれました。まず、刺激に応答して放出されるシナプス小胞はひとつなのか、複数なのかという疑問に対して、複数の小胞が反応できることを示しました。また刺激に対して応答したシナプス小胞は、5 ms後には膜融合し、11 ms後に遅れて膜融合のピークが訪れることが分かりました。さらに、5 ms後と11 ms後では、膜融合がおりやすい位置が異なるのです。新しいシナプス小胞は、14 ms後に放出の準備ができているのですが、最終的には10 sほどゆっくり時間をかけて補填されることが分かりました。

 本研究では、シナプス小胞がシナプス内でどのように刺激に応答し、膜融合の準備をしているかを詳細に観察することに成功しました。このような、微細構造を「観る」技術の発達によって生命のしくみが明らかになることは非常におもしろく、また、今私たちの頭の中で無数の神経伝達物質がやりとりされていると思うと驚きでもあります。

紹介論文:Synaptic vesicles transiently dock to refill release sites, Kusick et al., Nature Neuroscience 23, 1329-1338, 2020.

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