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肥満が脳の摂食ブレーキを弱める

 摂食は、身体の発達を促進することや、恒常性の維持をするための重要な活動です。それだけでなく、おいしいものを食べると幸福を感じるように、精神的な安定を得ることもできます。現代では、飽食による肥満の患者が増加し続けており、世界で5億人以上に上ると言われています。肥満の原因は様々であり、根本的な解決方法は見つかっていません。ノースカロライナ大学のRossiらは、摂食の制御機構を解明するために、脳の視床下部に着目して、研究を行いました。

 古くから、摂食の制御は脳で行われていると考えられ、脳の中心部にある視床下部という小さな領域に注目が集まっていました。筆者らは、その部位の中でも、摂食中枢と考えられていた視床下部外側野(LHA)に着目しました。このLHAに対してシングルセルRNAシーケンス解析を行ったところ、神経細胞だけでなく様々な種類の細胞の存在を確認しました。正常なマウスと肥満マウスのLHA領域細胞の遺伝子を比較したところ、神経細胞(LHAVglut2)の遺伝子変化の割合が高まっていました。続いて、筆者らは食事を与えていたマウスと絶食状態のマウスにスクロースを与え、LHAVglut2の細胞内カルシウム応答を観察しました。その結果、絶食したマウスよりも、食事を与えていたマウスの方が、細胞内カルシウム濃度が上昇しました。また、LHAVglut2を活性化するとスクロースをなめる回数が減少しました。これらのことから、LHAVglut2は摂食を抑制する可能性が示唆されました。さらに、スクロース投与時に、正常マウスと肥満マウスのLHAVglut2の細胞内カルシウムを観察しました。正常マウスと比較して、肥満マウスのLHAVglut2細胞内ルシウム濃度が低いという結果になりました。これは、摂食を抑制すると考えられるLHAVglut2の応答が弱まっていると考えられます。結論として、肥満は、摂食を抑制するLHAVglut2の遺伝子を変化させ、神経の応答を弱めてしまうことが示唆されました。LHAのさらなる研究により、摂食の調節機構の解明と摂食障害や肥満の治療方法の開発が期待されています。

紹介論文:Obesity remodels activity andtranscriptional state of a lateralhypothalamic brake on feeding,Rossi et al., Science 2019

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